平成24年3月28日 答申第491号(香川県情報公開審査会答申)
平成24年3月28日(答申第491号)
答申
第1 香川県情報公開審査会(以下「審査会」という。)の結論
小豆総合事務所長(以下「処分庁」という。)が行った一部公開決定(以下「本件処分」という。)は、妥当である。
第2 審査請求に至る経過
1 行政文書の公開請求
審査請求人は、平成23年5月27日付けで、香川県情報公開条例(平成12年香川県条例第54号。以下「条例」という。)第5条の規定により、処分庁に対し、「特定土地改良区内の特定地区の灌漑施設に関する一切の書類」という内容の行政文書の公開請求(以下「本件請求」という。)を行った。
2 処分庁の決定
処分庁は、公開請求のあった行政文書として「『ため池調査表』のうち特定地区のため池が記載されている部分」(以下「本件行政文書」という。)を特定し、「管理者及び所有者(番号579から583までに係る部分を除く。)」の部分が条例第7条第1号に該当するとして、平成23年6月7日付けで本件処分を行い、審査請求人に通知した。
3 審査請求
審査請求人は、本件処分を不服として、平成23年7月25日付けで、行政不服審査法(昭和37年法律第160号)第5条の規定により香川県知事(以下「諮問庁」という。)に対して審査請求を行った。
第3 審査請求の内容
1 審査請求の趣旨
「本件処分を取り消すとの裁決を求める。」というものである。
2 審査請求の理由
審査請求書において主張している理由は、おおむね次のとおりである。
- (1)本件「一部公開決定通知書」の公開しない理由には、適法に処分理由が明示されていないので、条例に違反し本件処分は無効である。
- (2)審査請求人はため池の違法埋め立て調査のために公開請求したのであるが、当該ため池がため池に該当するのかしないのか判然としない。小豆総合事務所の担当者は当該ため池が見当たらないと言うばかりである。本件行政文書には「池数」との表記欄もあって、複数で表記されているために、個別のため池が表記されていないのである。法務局の登記簿では「○○町○○番地」(以下「特定番地」という。)の地目は「ため池」である。悪意に満ちた不法行為である。
3 諮問庁による求釈明及び審査請求人による釈明
- (1)諮問庁による求釈明
上記の審査請求の理由(1)及び(2)のいずれにおいても、その解釈が複数考えられるなど審査請求人による釈明を必要とする事項が存在したため、諮問庁は平成23年9月2日付けで審査請求人に対して釈明を求めた。求釈明の内容は、おおむね次のとおりである。
- 審査請求の理由(1)について、処分理由の明示を求める規定がいかなる規定を指しているのか明らかにすること。
- 審査請求の理由(2)について、本件行政文書に関して「悪意に満ちた不法行為である。」との記載をしているが、ここで主張しようとする内容を明らかにすること。
- 審査請求の理由(2)について、審査請求書に記載した「池数」が何を指すのか明らかにすること。
- (2)審査請求人による釈明
これに対して審査請求人は、平成23年9月7日付けで釈明を行った。釈明の内容は、おおむね次のとおりである。
- 求釈明1について 審査請求人が審査請求の理由を明示するのは、請求者の真意と開示者の齟齬を取り除いて県民と行政の間の不服が残らないよう、個別具体的に情報の背景事情の提示による不備不足を補足指摘するためである。
- 求釈明2について 審査請求人がここで主張する内容は、本件行政文書は特定番地のため池が記載されていないという点で、その記載内容に不備がある、ということである。
- 求釈明3について 「池敷」を「池数」と取り違えたことによる記載であるから、取り下げる。
4 意見書について
意見書による主張は、おおむね次のとおりである。
- (1)香川県のため池保全諸規則及び香川県議会議決と本件違法ため池埋立てとの関連
平成16年4月1日付けで香川県農政水産部長が「ため池の保全に関する条例施行規則の一部改正に伴う事務の取り扱いについて」を作成し、また、昭和41年9月30日には香川県議会でも「老朽ため池整備促進に関する決議」がされている。議会も行政も共にため池の重要性を認識し、さらに、上記通達は処分庁に宛てて出されているのに処分庁は知らなかったという。本件のため池違法埋立てはそのような不可解な状況下で進められたのである。小豆総合事務所の土地改良課の担当職員はそれでも、工事施工者に資料を提出させて把握することを提案しても、いまさらできないと言うばかりである。
- (2)地すべり等防止法との関連
特定番地のため池は地すべり防止区域内のため池で、それを埋めて地すべり防止機能を持った施設を廃止するのであるから、然るべき届けを管理者に出すべきであるが、一切そのような許可をとった形跡はない。審査請求外甲は仮処分命令申立てをして、裁判所の判断を仰いだが、甲の屋敷が高いところにあることから浸水しないとの決定を受けた。しかし、本来の遊水機能は皆無にされて、県道の水も流れ込むことを考えると、現況のため池ともいえぬ、水溜り程度の貯水能力しか持たない貯水池では心もとない。
- (3)意見
私は情報公開制度の恩恵に浴しだして15年以上の年月を経た。条例も数次にわたって改正され非常に使いよいものとなってきたが、反面今も昔もかわらない闇の部分が今も存在する。上記(1)、(2)に述べた事案がそれである。当件事案を見る限り、条例の目的にうたわれているような「公正で民主的な」行政運営とはおよそ言いがたいのである。地方出先機関の劣化が叫ばれているが、この事案はその典型である。役人の当事者感覚の薄さに原因があるから、この案件に関わった小豆総合事務所の土地改良課職員の審査請求外乙、○○町の農林水産課職員の審査請求外丙らの責任を追及するべきだ。
- (4)隠蔽体質
地すべり等防止法(昭和33年3月31日法律第30号)、ため池の保全に関する条例(昭和41年香川県条例第36号)等の規制のかかった当件のようなため池がなぜこのように安易に埋立てが可能であったか不可解極まりない。本件行政文書にはもっと規模の小さなため池も登載され保護の対象となっているのに、特定番地のため池に限って登載されていないのは意図的に何者かが排除したのかと疑いも持ちたくなる。やはり、どんなにりっぱな情報公開条例を持とうが、どんなりっぱな情報公開審査会が存在しようが、香川県には隠蔽体質が依然として残り、公正な行政運営とは程遠いといわざるを得ない。
第4 諮問庁の説明の要旨
非公開理由等説明書による説明は、おおむね次のとおりである。条例第7条第1号では、個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの又は特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがあるものを非公開情報と定めている。ただし、本号のただし書に掲げる情報については、非公開情報から除くこととしている。
本号に該当するため非公開とした部分は、「ため池調査表」のうち特定地区のため池が記載されている部分に記載された「管理者及び所有者」のうち個人の氏名であり特定の個人が識別できる個人に関する情報であるので、条例第7条第1号本文に該当する。また、同号ただし書きのいずれにも該当しない。
第5 審査会の判断理由
1 判断における基本的な考え方について
条例は、その第1条にあるように、県民の行政文書の公開を求める権利を具体的に明らかにするとともに、行政文書の公開に関し必要な事項を定めることにより、県の保有する情報の一層の公開を図り、県政に関し県民に説明する責務が全うされるようにし、県政に対する県民の理解と信頼を深め、もって地方自治の本旨に即した県政の発展に寄与することを目的として制定されたものであり、審査に当たっては、これらの趣旨を十分に尊重し、関係条項を解釈し、判断するものである。
2 本件行政文書の内容等について
本件行政文書は、平成11年4月から同年11月に実施された「香川県ため池実態調査」にて把握された「ため池」に関する調査表であり、以下の項目が記載されている。
1池名 2所在地 3管理者、所有者 4受益面積、受益個数 5水系 6地域区分 7満水池敷面積 8堤高、堤長、貯水量 9堤体 10取水施設構造他 11洪水吐構造他 12構造年 13改修履歴
3 判断
- (1)審査請求人が主張する審査請求の理由の妥当性について
- 処分理由の提示の是非に関する主張について
審査請求人は、「本件処分では適法に処分理由が明示されておらず、条例に違反する」旨を主張する。しかし、条例には処分理由の提示を求める旨の規定(以下「理由提示規定」という。)はないため、諮問庁は審査請求人にこの点について求釈明を行ったが、審査請求人は理由提示規定がいかなる規定を指すのかについて明確な回答をしていない。そこで、審査請求人が理由提示規定として主張している可能性が考えられる規定の違反の有無について、以下で順に検討する。
まず、前述の通り、条例には審査請求人が主張するような理由提示規定はないため、審査請求人の当該主張は当たらない。
また、条例第11条及び香川県情報公開条例施行規則(平成12年規則第148号)第4条に対応して定められている香川県情報公開事務取扱要領第3の7(2)イは、行政文書一部公開決定通知書(規則第3号様式)における非公開理由の記載方法について、「『公開しない理由』欄にあっては、公開しない部分ごとに、条例第7条の何号に該当するのか、また、当該規定を適用する理由をできるだけ具体的に記入する。」と規定しており、審査請求人がこの規定の違反を主張している可能性もある。
本件処分の「公開しない理由」については、「特定の個人が識別され得る個人に関する情報に該当するため。(条例第7条第1号本文該当)」として、適用条項とともに非公開とする理由が具体的に記載されており、本件では事務取扱要領に則した適切な処分理由の提示が行われていたといえる。したがって、審査請求人の当該主張は当たらない。
さらに、処分理由提示の不備を審査請求の理由としている点に鑑みると、審査請求人は本件処分が申請により求められた許認可等を拒否する処分をする場合の理由の提示に関する一般的規定である香川県行政手続条例(平成7年条例第5号)第8条に違反すると主張するべきところ、適用法規を誤ったものとも善解できる。同条は条例上の一部公開決定における理由の提示にも適用されると解されるが、同条に照らして本件処分の理由の提示が適切か否かは条例の解釈、運用に関するものではないため、審査請求人の当該主張について審査会では判断しないものとする。
- 本件行政文書の記載内容に関する主張について
諮問庁が行った求釈明に対する審査請求人の釈明によれば、審査請求人が審査請求の理由2において主張している内容は、特定番地のため池が本件行政文書に記載されていないという、本件行政文書の記載内容の是非に関するものであると解される。
このような請求対象行政文書の記載内容の是非に関する主張は、そもそも条例の解釈、運用に関するものではないため、審査会では判断しないものとする。
なお、条例はその第1条に規定するとおり、県民の行政文書の公開を請求する権利を定めこれを保障しているが、これは文書の記載内容を審査して変更又は訂正を求める権利までをも含むものではないから、当該主張は条例の保護する審査請求人の権利利益に係る違法、不当の主張ではない。そのため当該主張は、行政不服審査法の趣旨から行うことができない主張であり、いずれにせよ当たらない。
- (2)行政文書の特定の妥当性及び非公開条項の該当性について 本件審査請求で、審査請求人は本件請求対象行政文書の特定の妥当性及び非公開条項の該当性について主張していないが、いずれも本件処分の適否を判断する上で審査が必要な事項であると解されるため検討する。
- 行政文書の特定の妥当性について
審査請求人は、「特定土地改良区内の特定地区の灌漑施設に関する一切の書類」の公開を請求し、これに対して処分庁は、「ため池調査表」のうち特定地区のため池が記載されている部分を特定している。
この点、ため池は一般的に「かんがい施設」に含まれると解されているが、「かんがい施設」とはため池に限るものではなく、その他にもダム、水路その他の施設もこれに含まれると解される。そこで、審査会から諮問庁に説明を求めたところ、「特定地区に存在し、処分庁が保有する行政文書に記載されたかんがい施設はため池に限られている。これについては、本件処分が行われるに当たって、審査請求人と処分庁の間で直接確認されている。」との説明があった。
これらを踏まえると、本件請求対象行政文書は「上記地区内のため池に関する書類」を指すと考えられる。そして審査会で調査したところ、「上記地区内のため池に関する書類」は「ため池調査表」に限られており、諮問庁の説明に不自然な点はない。
したがって、本件処分において本件行政文書を本件請求対象行政文書として特定した処分庁の判断は是認できる。
- 非公開条項の該当性について
条例第7条第1号は、個人の尊厳及び基本的人権の尊重の立場から、個人のプライバシーを最大限に保護するために定められたものであるが、プライバシーの具体的な内容が法的にも社会通念上も必ずしも明確ではなく、その内容や範囲は事項ごと、各個人によって異なり得ることから、本条例は、プライバシーであるか否か不明確な情報も含めて、特定の個人が識別され得る情報を包括的に非公開として保護することとした上で、さらに、個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがあるものについても、非公開とすることを定めたものである。
しかし、これらの個人に関する情報には、個人の権利利益を侵害しないと考えられ非公開とする必要のない情報及び公益上の必要があると認められる情報も含まれているので、これらの情報を本号ただし書で規定し、公開することを定めたものと解される。
この基本的な考え方に基づき、処分庁が本号に該当するとして非公開とした部分について検討する。
本件処分において処分庁が非公開としたのは、本件行政文書に記載された「管理者及び所有者」のうち個人の氏名である。
これらの情報は、特定の個人を識別することができる個人に関する情報であり、条例第7条第1号本文に該当する。
また、不動産の所有者氏名は不動産登記簿にも記載されるが、これについて諮問庁に説明を求めたところ、「登記簿記載の所有者と、実際のため池の管理者及び所有者とは必ずしも一致するものではない。」とのことであり、不動産登記簿に所有者名が記載されることをもって、実際のため池の管理者及び所有者が公にされているとはいえないから、同号ただし書アに該当せず、その他のただし書にも該当しないと判断される。
- (3)その他の主張について
その他、審査請求人は種々の主張をしているが、いずれも審査会の上記判断を左右するものではない。
よって、当審査会は、「第1 審査会の結論」のとおり判断する。
第6 審査会の審査経過
当審査会は、本件諮問事件について、次のとおり審査を行った。
(省略)
401号~450号 451号~500号 501号~