平成22年1月20日 答申第468号(香川県情報公開審査会答申)
平成22年1月20日(答申第468号)
答申
第1 香川県情報公開審査会(以下「審査会」という。)の結論
香川県知事(以下「実施機関」という。)が行った一部公開決定(以下「本件処分」という。)は、妥当である。
第2 異議申立てに至る経過
1 行政文書の公開請求
異議申立人は、平成21年7月14日付けで、香川県情報公開条例(平成12年香川県条例第54号。以下「条例」という。)第5条の規定により、実施機関に対し、次の内容の行政文書の公開請求を行った。
- (1)○○農業協同組合(以下「○○農協」という。)△△以外の△△及び△△での農業協同組合法第94条に規定する業務及び会計の状況についての検査の結果を記載した一切の文書。ただし、平成16年度以降のものに限る。
- (2)上記(1)の検査に関して○○農協に通知した一切の文書写し又は控え
- (3)○○農協に合併前の○○農業協同組合(以下「○○農協」という。)(□□所在)での農業協同組合法第94条に規定する業務及び会計の状況についての検査の結果を記載した一切の文書
- (4)上記(3)の検査に関して○○農協に通知した一切の文書写し又は控え
2 実施機関の決定
実施機関は、公開請求のあった行政文書として次の行政文書(以下「本件行政文書1」ないし「本件行政文書5」という。)を特定し、別表の「公開しない部分」が「公開しない理由」に該当するとして、平成21年7月27日付けで本件処分を行い、異議申立人に通知した。
- (1)平成16、17、18、19、20、21年度に実施した○○農協に対する検査実施書の写し及び控え
- (2)平成16、17、18、19、20、21年度に実施した○○農協に対する検査メモ・検査メモ送付状の写し及び控え
- (3)平成16、17、18、19、20年度に実施した○○農協に対する検査指示書の写し及び控え
- (4)平成16、17、18、19、20年度に実施した上記検査の結果に対する改善状況報告徴求の写し及び控え
- (5)昭和62年度、平成2、4、6、7、9年度に実施した○○農協に対する検査指示書の控え
3 異議申立て
異議申立人は、本件処分を不服として、平成21年7月29日付けで、行政不服審査法(昭和37年法律第160号)第6条の規定により実施機関に対して異議申立てを行った。
第3 異議申立ての内容
1 異議申立ての趣旨
「本件処分を取り消すとの決定を求める」というものである。
2 異議申立ての理由
異議申立書において主張している理由は、おおむね次のとおりである。
- (1)本件処分は、条例の解釈適用を誤った違法な処分であり、本件処分を取り消し、全部公開をすべきである。
- (2)本件「決定通知書」記載の非公開事由は、条例に規定する非公開事由に該当しない。
- (3)本件「決定通知書」の非公開事由には、適法に処分理由が明示されていないので、香川県行政手続条例第8条の規定に違反し本件処分は無効である。
第4 実施機関の説明の要旨
非公開理由等説明書による説明は、おおむね次のとおりである。
1 条例第7条第1号の該当性について
条例第7条第1号では、個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの又は特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがあるものを非公開情報と定めている。ただし、本号のただし書に掲げる情報については、非公開情報から除くこととしている。
本件行政文書については、個人に対する融資等に関する部分が含まれている。当該部分には、個人の氏名が記載されており、特定の個人が識別され得るとともに、当該個人と○○農協又は○○農協(以下「両農協」という。)との取引状況等が記載されているので、公開することにより個人の権利利益を害すると認められる。
また、本件行政文書5のうち、○○農協の検査に立ち会った農協の役員については、特定の個人が識別できる個人に関する情報であるので、条例第7条第1号本文に該当する。
なお、農協の代表権を有する者の氏名は農業協同組合法(昭和22年11月19日法律第132号)の規定により公にされているが、非公開とした部分は、○○農協の検査にどの役員が立ち会っていたかという情報であり、法令又は条例の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報ではないので、同号ただし書アに該当しない。また、同号ただし書の他のいずれにも該当しない。
よって、条例第7条第1号に該当し、ただし書に該当しない。
2 条例第7条第2号の該当性について
条例第7条第2号では、法人等に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、公にすることにより、当該法人等又は当該個人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるものを非公開情報と定めている。ただし、事業活動によって生じ、又は生ずるおそれのある危害から人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報については、非公開情報から除くこととしている。
本件行政文書については、本号に該当するとして非公開とした部分には、両農協並びに両農協と取引のある法人その他の団体及び事業を営む個人(以下「取引先法人等」という。)の具体的な情報が記載されている。当該情報を公開すれば、両農協と取引先法人等との取引状況、取引先法人等の資金調達の方法、両農協及び取引先法人等の財務状況、両農協の取引先法人等に対する評価、県の両農協及び取引先法人等に対する評価等が明らかとなる。両農協と特定の取引先法人等がどのような取引状況にあるのか、また、どのような財務状況にあるのか、両農協が特定の取引先法人等をどのように評価しているか等の情報は、双方の経営上重要な内部管理に関する情報であり、公開することにより競争関係にある者等によって利用されるなど、○○農協(合併により○○農協を承継)と取引先法人等の運営に支障を及ぼすとともに、不測の事態を招くおそれもあり、○○農協と取引先法人等に不利益を与えることが明らかである。
よって、条例第7条第2号に該当し、ただし書に該当しない。
3 条例第7条第4号の該当性について
条例第7条第4号では、県の機関等が行う事務又は事業に関する情報であって、公にすることにより、当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるものを非公開情報と定めている。
本件行政文書については、農業協同組合法第94条に基づく検査の結果を記載したものである。この検査は、農協の健全な運営を確保するために行っているものであり、行政法上の任意調査権として位置づけられ、司法上の強制捜査権とは異なり、一方的に事務所に侵入し、書類その他の物件を押収し、また農協役職員の身柄を拘束することはできず、権限の行使に当たっては、常に相手方の承諾を必要とする。
また、検査の実施に当たっては、事実をありのままに記した資料の提出や説明など、農協役職員の協力が必要不可欠であり、被検査団体との一定の協力関係が、検査を効果的、効率的に遂行できる前提条件になっている。その「承諾」、「協力」については、検査員が入手した情報が守秘義務によって公開されないことによって成立している。
したがって、検査メモ及び検査指示書の中には、両農協から検査によって入手した情報が記載されており、それを公開すれば、組合員等に動揺を与えること、競争関係にある者等に利用されることなどによって、その運営上不利益を与えるだけでなく、提供した情報が公開されるということで、今後の検査において、「承諾」、「協力」を得ることができなくなり、正確な事実の把握が困難となるため、検査事務の公正若しくは適正な遂行に著しい支障を及ぼすおそれがある。
よって、条例第7条第4号に該当する。
第5 審査会の判断理由
1 判断における基本的な考え方について
条例は、その第1条にあるように、県民の行政文書の公開を求める権利を具体的に明らかにするとともに、行政文書の公開に関し必要な事項を定めることにより、県の保有する情報の一層の公開を図り、県政に関し県民に説明する責務が全うされるようにし、県政に対する県民の理解と信頼を深め、もって地方自治の本旨に即した県政の発展に寄与することを目的として制定されたものであり、審査に当たっては、これらの趣旨を十分に尊重し、関係条項を解釈し、判断するものである。
なお、非公開情報の該当性の判断に当たっては、実施機関が主張する非公開理由のうちのいずれかに該当すると判断した情報については、他の非公開理由の該当性についての判断は行わないものである。
2 本件行政文書の内容等について
本件行政文書は、県が農業協同組合法第94条の規定により、両農協に対し検査を実施することに関して、通知した文書である。これらの文書の個別の内容については、次のとおりである。
- (1)本件行政文書1
検査の実施を○○農協に通知した検査実施書の写し
- (2)本件行政文書2
検査結果を○○農協の△△ごとに記載し通知した検査メモ及びその送付状の写し
- (3)本件行政文書3
検査結果を○○農協に通知した検査指示書の写し
- (4)本件行政文書4
検査結果に対する改善状況の報告を○○農協に求めた改善状況報告徴求の通知の写し
- (5)本件行政文書5
検査結果を○○農協に通知した検査指示書の写し
3 非公開情報該当性について
- (1)条例第7条第2号の該当性について
条例第7条第2号は、法人等又は事業を営む個人の正当な利益を害することを防止する観点から、その事業活動の自由を保障し、公正な競争秩序を維持するため、公にすることにより当該法人等又は事業を営む個人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれのある情報を非公開とすることとした上で、それらに該当する情報であっても、人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報については、公開することを定めたものであると解される。
この基本的な考え方に基づき、実施機関が本号に該当するとして非公開とした部分について検討する。
審査会で見分したところ、本件行政文書2のうち「表題、日付及び検査員以外の部分」、並びに本件行政文書3及び本件行政文書5のうち「総評」、「主要指摘事項」、「監事監査」、「その他指摘事項」、「自己査定検証結果取りまとめ表・検査結果取りまとめ表」及び「別表」については、両農協の検査により明らかとなった事実や検査員が分析、検討した個別具体的な運営上又は事務処理上の指摘事項等が記載されていることが確認された。
これらの情報は、○○農協(合併により○○農協を承継)にとって今後の運営方針の決定や事務の改善のために重要な情報であり、事業上秘密にすべき内部管理情報である。また、これらの情報は、両農協の取引先法人等の内部管理情報でもある。
よって、これらの情報を公にすることは、他の金融機関等との競争上、○○農協にとって不利益となるばかりでなく、取引先法人等との信用関係において大きな影響を与え、○○農協の運営全般に重大な支障を生じるおそれがあると認められる。
また、本件行政文書5のうち「目次の別表の表題」については、当該部分に記載されている内容が分かるだけで、○○農協の評価に関わる憶測等が起こる可能性があり、貯金事業等の信用事業を行う○○農協においては、憶測等であっても経営に重大な影響を及ぼすおそれがあることから、公にすることにより、○○農協の競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあると判断される。
したがって、本件行政文書2のうち「表題、日付及び検査員以外の部分」、並びに本件行政文書3及び本件行政文書5のうち「目次の別表の表題」、「総評」、「主要指摘事項」、「監事監査」、「その他指摘事項」、「自己査定検証結果取りまとめ表・検査結果取りまとめ表」及び「別表」については、条例第7条第2号本文に該当し、ただし書に該当しないと判断される。
- (2)条例第7条第1号の該当性について
審査会で見分したところ、上記(1)の非公開部分以外で実施機関が非公開とした部分は、本件行政文書5の「検査の要領」に記載された、検査に立ち会った○○農協の役員の職氏名である。これらは個人に関する情報であって、特定の個人を識別することができる情報であることから、条例第7条第1号本文に該当すると判断される。
次に、ただし書の該当性について検討する。
農協の検査における立会人の氏名及び役職名は、一般に慣行として公にされ、又は公にされることが予定されている情報とは認められないので、ただし書アに該当せず、その他のただし書にも該当しないと判断される。
4 第3の2異議申立ての理由のうち、(3)について
条例の解釈、運用に関するものでないので、審査会では判断しないものとする。
よって、当審査会は、「第1 審査会の結論」のとおり判断する。
第6 審査会の審査経過
当審査会は、本件諮問事件について、次のとおり審査を行った。
(省略)
別表
公開しない部分 |
公開しない理由 |
- 本件行政文書2のうち、表題、日付け及び検査員以外の部分
- 本件行政文書3のうち、第2総評、第3主要指摘事項、第4監事監査、第5その他指摘事項、第6自己査定検証結果取りまとめ表・検査結果取りまとめ表
- 行政文書5のうち、検査に立ち会った役員、目次の別表の表題、第2総評、第3主要指摘事項、第4その他の指摘事項、別表
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- 条例第7条第1号該当
公開しない部分のうち、個人への貸出や個人の財務状況等に関して記載されている部分については、個人の氏名が記載されており、特定の個人が識別され得る情報であるため
- 条例第7条第2号該当
公開しない部分のうち、法人等又は事業を営む個人に係る部分については、農協及び農協と取引のある法人等又は事業を営む個人の内部管理に関する情報が記載されており、公開することにより、当該法人等又は事業を営む個人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるため。
- 条例第7条第4号該当
検査に関する情報であり、公開することにより、正確な事実の把握が困難となり、事務の公正若しくは適正な遂行に著しい支障を及ぼすおそれがあるため。
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401号~450号 451号~500号 501号~