平成22年11月15日 答申第478号(香川県情報公開審査会答申)
平成22年11月15日(答申第478号)
答申
第1 香川県情報公開審査会(以下「審査会」という。)の結論
香川県知事(以下「実施機関」という。)が行った一部公開決定(以下「本件処分」という。)は、妥当である。
第2 異議申立てに至る経過
1 行政文書の公開請求
異議申立人は、平成22年2月9日付けで、香川県情報公開条例(平成12年香川県条例第54号。以下「条例」という。)第5条の規定により、実施機関に対し、「高松港多目的国際ターミナル整備事業に伴う特定漁協との漁業補償契約書及び委任状」という内容の行政文書の請求を行った。
2 実施機関の決定
実施機関は、公開請求のあった行政文書として、「平成20年11月28日に締結した高松港多目的国際ターミナル整備事業に係る特定漁業協同組合との漁業補償契約書」(以下「本件行政文書1」という。)及び「委任状」(以下「本件行政文書2」という。)を特定し、別表の左欄の「公開しない部分」が右欄の「公開しない理由」に該当するとして本件処分を行い、平成22年2月19日付けで異議申立人に通知した。
3 異議申立て
異議申立人は、本件処分を不服として、平成22年2月19日付けで、行政不服審査法(昭和37年法律第160号)第6条の規定により実施機関に対して異議申立てを行った。
第3 異議申立ての内容
1 異議申立ての趣旨
「本件処分を取り消すとの決定を求める」というものである。
2 異議申立ての理由
異議申立書において主張している理由は、次のとおりである。
特定漁業協同組合代表理事○○に交渉を委任しているが、代理権限を証する書面(委任状)に「漁業補償」という文言が判明せず委任事項が不明であり、本当に代理権限があったかどうか不明である。その文言があるかどうかの公開を求める。
第4 実施機関の説明の要旨
非公開理由等説明書による説明は、次のとおりである。
- (1)漁業補償のあり方と情報公開についての基本方針の決定について
県においては、平成16年度以前に締結された漁業補償契約については、補償交渉のほとんどが関係漁協との個別交渉、契約、支払であることから、補償額等の公開は今後の補償交渉に影響を及ぼし、ひいては公共事業の進捗に支障をきたす懸念があることから、他の資料で公知の部分を除き、非公開としてきた。
しかし、一方で、公金支出の透明性を確保し説明責任を果たすことの重要性が高まり、交渉の円滑化を図りながら情報公開をより一層に進めることが課題となってきたことから、県においては、税金の使途の透明性、関係漁協の協力、公共事業の円滑な実施などを総合的に勘案しながら、漁業補償のあり方と情報公開の内容、方法等の検討を進め、平成17年4月1日に「漁業補償のあり方と情報公開についての基本方針」(以下「基本方針」という。)を決定した。
基本方針においては、今後の漁業補償については、これまで関係漁協ごとに個別交渉してきた慣例を改め、補償交渉は関係漁協を代表する者で構成する交渉団体との一括交渉、契約は交渉団体代表者との一括契約を原則とすることとし、漁業補償に関する情報については、交渉団体との契約締結後において、(a)事業名、(b)漁協名、(c)補償総額を公開することとした。ただし、漁協ごとの補償額、補償額の算定に係る資料等については、将来の同種の補償事務の公正かつ円滑な実施を著しく困難にするおそれがあることなどから、公開しないこととしている。
- (2)条例第7条第1号の該当性について
条例第7条第1号では、個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの又は特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがあるものを非公開情報と定めている。ただし、本号のただし書に掲げる情報については、非公開情報から除くこととしている。
- (a)契約書の代理人を選任した個人の氏名
契約書には、代理人を選任した個人の氏名が記載されている。これは、個人に関する情報で、特定の個人が識別され得るものであり、本号本文に該当し、ただし書のいずれにも該当しない。
- (b)委任状のうち代理人の氏名、職名、所属する団体名及び団体の所在地並びに委任年月日を除く部分
本件委任状には、委任の内容、代理人並びに委任者の住所、所属、職名、氏名及び印影等が記載又は表示されている。
委任状とは、他人にある事務の処理を委任したことを証するために、委任者から受任者に交付する文書であり、本件委任状には、私人の間において委任する事務の内容及びその条件等、委任者の一定の意思が表示されている。このような特定の個人の意思表示にかかる情報は、全体として本号本文に該当する。
本件委任状のうち、代理人である特定漁協代表者の氏名、職名及び団体の所在地については、水産業協同組合法により登記事項とされ、法令等の規定により公にされる情報であることから、本号ただし書アに該当すると判断し、公開したものである。
しかし、本件委任状に記載されたこれら以外の委任者に係る情報及びその他の委任内容については、法令等の規定により公にされる情報ではなく、人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であるとも認められないことから、ただし書のいずれにも該当しない。
- (3)条例第7条第2号の該当性について
条例第7条第2号では、法人等に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、公にすることにより、当該法人等又は当該個人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるものを非公開情報と定めている。ただし、事業活動によって生じ、又は生ずるおそれのある危害から人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報については、非公開情報から除くこととしている。
- (a)契約書の法人の印影
印影は、一般的に法人等が事業活動を行う上での重要な内部管理に属する情報であり、このような情報を外部に対して明らかにするかどうかは、本来、法人等が自らの事業活動とのかかわりの中で自主的に決定すべきことであり、法人等は、公開すべき相手方を限定する利益を有しているというべきである。
しかしながら、このような情報であっても、当該法人等がそのような管理をしていないと認められる場合には、これが公開されても、当該法人等の正当な利益を害するものとは認められない。
本件処分により非公開とした印影は、特定漁協が漁業補償契約締結のため押印したものであり、このような文書の相手先は、知事等に限定されていると考えられる。
また、本件印影は、当該法人が真正かつ真意に基づいて作成した文書であることを示す機能を有する性質のものであるとともに、特定の書類に限定して用いられ、当該法人においてむやみに公にしていないものと認められることから、公にした場合には、当該法人の各種書類の偽造等に悪用されることなどが考えられる。
よって、本件印影は、内部管理情報として取り扱われているものと判断され、当該法人の事業活動に関わりなく、本条例により広く一般に公開することは、当該法人の正当な意思、期待に反し、当該法人の正当な利益を害すると認められるので、本号本文に該当し、ただし書のいずれにも該当しない。
- (b)契約書の補償金額
本件補償金額は、特定漁協の経理に関する内部管理に属する情報であり、これを当該法人の事業活動に関わりなく、本条例により広く一般に公開することは、当該法人の正当な意思、期待に反し、当該法人の財務状況が推測されるなど、当該法人の正当な利益を害すると認められるので、本号本文に該当し、ただし書のいずれにも該当しない。
- (c)委任状のうち代理人の氏名、職名、所属する団体名及び団体の所在地並びに委任年月日を除く部分
本件委任状は、特定漁協の組合員から組合長に提出された当該法人の内部管理に属する情報であり、これを当該法人の事業活動に関わりなく、本条例により広く一般に公開することは、当該法人の正当な意思、期待に反し、当該法人の正当な利益を害すると認められるので、本号本文に該当し、ただし書のいずれにも該当しない。
- (4)条例第7条第4号の該当性について
条例第7条第4号では、県の機関等が行う事務又は事業に関する情報であって、公にすることにより、当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるものを非公開情報と定めている。
- (a)契約書の補償金額
県は前述のとおり、平成17年4月に、漁業補償のあり方と情報公開についての基本方針を決定し、交渉団体との契約締結後において、補償総額は公開するが、漁協ごとの補償額については公開しないことと定めており、この基本方針に基づき、本件補償金額を非公開としたものである。
漁業補償は私法上の契約であって、起業者が補償金額を一方的に決めうるものではなく、あくまで相手との交渉を経て、その合意を要するものであり、交渉が成立しなければ早期円滑に事業を実施することはできない。
一方で、補償金の算出基礎を求めるためには、関係漁協の協力のもと、聞取り調査やアンケート調査等により、平年漁獲金額や年間経営費等を把握する必要があることから、漁業補償交渉では、他の交渉以上に、関係漁協の協力や関係漁協と起業者の信頼関係が求められる。
補償金額は、公共用地の取得に伴う損失補償基準に基づいて算定しているが、算出基礎等には様々な要素があり、個々具体的な適用には、当該地域の実情やその他の条件を斟酌しており、他の漁業補償にそのまま適用することは難しい。したがって、仮に、当該部分が公開されれば、当該補償における算定であるにもかかわらず、積算根拠となる各種の基準や条件と関わりなく、当該補償金額のみが一人歩きすることによって、物件の類似性や規模等から自己の補償金額を誤って推測したり、無用の詮索や憶測を抱くことにより混乱を招き、相手側との信頼関係が損なわれ、いたずらに交渉が遅延したり、不成立に終わるおそれがある。
よって、補償金額は、公開することにより、将来の同種の事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるため、本号に該当する。
第5 審査会の判断理由
1 判断における基本的な考え方について
条例は、その第1条にあるように、県民の行政文書の公開を求める権利を具体的に明らかにするとともに、行政文書の公開に関し必要な事項を定めることにより、県の保有する情報の一層の公開を図り、県政に関し県民に説明する責務が全うされるようにし、県政に対する県民の理解と信頼を深め、もって地方自治の本旨に即した県政の発展に寄与することを目的として制定されたものであり、審査に当たっては、これらの趣旨を十分に尊重し、関係条項を解釈し、判断するものである。
なお、非公開情報の該当性の判断に当たっては、実施機関が主張する非公開理由のうちのいずれかに該当すると判断した情報については、他の非公開理由の該当性についての判断は行わないものである。
2 本件行政文書の内容について
本件行政文書1は、高松港多目的国際ターミナル整備事業の実施に伴い、知事が特定漁協組合長と締結した平成20年11月28日付け漁業補償契約書である。
本件行政文書2は、上記漁業補償に関し、特定漁協の組合員から組合長へ交付された委任状である。
3 非公開情報該当性について
- (1)条例第7条第1号の該当性について
条例第7条第1号は、個人の尊厳及び基本的人権の尊重の立場から、個人のプライバシーを最大限に保護するために定められたものであるが、プライバシーの具体的な内容が法的にも社会通念上も必ずしも明確ではなく、その内容や範囲は事項ごと、各個人によって異なり得ることから、本条例は、プライバシーであるか否か不明確な情報も含めて、特定の個人が識別され得る情報を包括的に非公開として保護することとした上で、さらに、個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがあるものについても、非公開とすることを定めたものである。
しかし、これらの個人に関する情報には、個人の権利利益を侵害しないと考えられる情報及び公益上の必要があると認められる情報も含まれているので、これらの情報を本号ただし書で規定し、公開することを定めたものと解される。
- (a)契約書の代理人を委任した個人の氏名について
本件行政文書1に記載されている契約の代理人を委任した個人の氏名は、特定の個人が識別できる情報であるため、条例第7条第1号本文に該当し、ただし書きに該当しないと判断される。
- (b)委任状のうち代理人の氏名、職名、所属する団体名及び団体の所在地並びに委任年月日を除く部分について
委任状とは、他人にある事務の処理を委任したことを証するために、委任者から受任者に交付する文書であり、本件委任状には、委任者の住所、氏名及び印影のほか、個人が委任する事務の内容及びその条件等、委任者個人の意思が記載されている。このような特定の個人にかかる情報は、全体として条例第7条第1号本文に該当すると判断される。そして本件委任状を公表する法令又は条例はなく、また一般に慣行として公にされ、又は公にされることが予定されている情報でもないことから、ただし書アに該当せず、その他のただし書にも該当しないと判断される。
- (2)条例第7条第2号の該当性について
条例第7条第2号は、法人等に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、公にすることにより、当該法人等又は当該個人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるものを非公開情報と定めている。ただし、事業活動によって生じ、又は生ずるおそれのある危害から人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報については、非公開情報から除くこととしている。
本件行政文書1のうち、実施機関が本号に該当するとして非公開とした部分は、法人の印影である。
印影は、一般的に法人等が事業活動を行う上での重要な内部管理に属する情報であり、このような情報を外部に対して明らかにするかどうかは、本来、法人等が自らの事業活動とのかかわりの中で自主的に決定すべきことであり、法人等は、公開すべき相手方を限定する利益を有しているというべきである。
しかしながら、このような情報であっても、当該法人等がそのような管理をしていないと認められる場合には、これが公開されても、当該法人等の正当な利益を害するものとは認められない。
本件処分により非公開とされた印影は、特定漁協が漁業補償契約締結のため押印したものであり、このような文書の相手先は、実施機関に限定されていると考えられる。
また、本件印影は、当該法人が真正かつ真意に基づいて作成した文書であることを示す機能を有する性質のものであるとともに、特定の書類に限定して用いられ、当該法人においてむやみに公にしていないものと認められることから、公にした場合には、当該法人の各種書類の偽造等に悪用されることなどが考えられる。
よって、本件印影は、内部管理情報として取り扱われているものと判断され、当該法人の事業活動に関わりなく、本条例により広く一般に公開することは、当該法人の正当な意思、期待に反し、当該法人の正当な利益を害すると認められるので、条例第7条第2号に該当し、ただし書に該当しないと判断される。
- (3)条例第7条第4号の該当性について
条例第7条第4号は、県の機関等が行う事務又は事業の目的達成又は適正な執行の確保の観点から、当該事務又は事業に関する情報の中で、当該事務又は事業の性質、目的等からみて、公開することにより、将来の当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある情報については、非公開とすることを定めたものであると解される。
本件行政文書1のうち、補償金額について、実施機関は、平成17年4月1日に決定した基本方針において、交渉団体との契約締結後に(a)事業名、(b)漁協名、(c)補償総額については公開し、漁協ごとの補償額、補償額の算定に係る資料等については、将来の同種の補償事務の公正かつ円滑な実施を著しく困難にするおそれがあることなどから、公開しないこととしている。
本件に係る漁業補償契約書の締結日は平成20年11月28日であるため、本件に係る交渉も、この基本方針を前提として行われたと認められる。
また、漁業補償に係る事務については、実施機関は相手方である関係漁協に対して事業への協力を依頼する立場にあり、実施機関が主張するように、補償金の算出基礎を求めるためには、関係漁協の協力のもとで聞取り調査やアンケート調査等により平年漁獲金額や年間経営費等を把握する必要があること、さらに算定した補償金額で関係漁協の合意を得なければならないが、交渉に応じるか否かは相手方の任意であることなど、交渉の妥結には、通常多大の労力と相当の期間を要していることが認められる。
そのため、実施機関が基本方針として示した内容に反し、関係漁協ごとの個々の補償金額等の情報が事後に公開されるということになれば、これまでに築き上げた実施機関と漁協との間の信頼関係を損なうとともに、今後の補償交渉に当たり、相手方である関係漁協の実施機関に対する不信感を募らせ、交渉に応じることはおろか、事業説明や事前の調査等に協力を得ることすら、非常に難しくなることが十分に予想される。
また実施機関は、補償金額は公共用地の取得に伴う損失補償基準に基づいて算定しているが、算出基礎等には様々な要素があり、個々具体的な適用には、当該地域の実情やその他の条件を斟酌しており、他の漁業補償にそのまま適用することは難しく、仮に当該部分が公開されれば、当該補償における算定であるにもかかわらず、積算根拠となる各種の基準や条件と関わりなく、当該補償金額のみが一人歩きすることによって、物件の類似性や規模等から自己の補償金額を誤って推測したり、無用の詮索や憶測を抱くことにより混乱を招き、相手側との信頼関係が損なわれ、いたずらに交渉が遅延したり、不成立に終わるおそれがある旨主張している。
確かに本件漁業補償に係る補償金額を公開した場合、実施機関が主張するとおり、今後の漁業補償交渉において、物件の類似性や規模等から自己の補償金額を誤って推測したり、無用の詮索や憶測を抱くことにより混乱を招き、交渉の長期化や不調につながる可能性も否定できない。
したがって、補償金額が記載された部分は、公開することにより、将来の同種の事務の公正若しくは円滑な執行に著しい支障を及ぼすおそれがあるため、条例第7条第4号に該当すると判断される。
よって、当審査会は、「第1 審査会の結論」のとおり判断する。
第6 審査会の審査経過
当審査会は、本件諮問事件について、次のとおり審査を行った。
(省略)
別表
本件行政文書1
公開しない部分 |
公開しない理由 |
契約書の補償金額 |
- (条例第7条第2号本文該当)
法人の経理に関する内部管理に属する情報であり、公開することにより、当該法人に不利益を与えるおそれがあるため。
- (条例第7条第4号該当)
県が行った漁業補償に係る交渉の事務に関する情報であり、公開することにより、将来の同種の事務の公正若しくは円滑な執行に著しい支障を及ぼすおそれがあるため。
|
契約書の代理人を選任した個人の氏名 |
- (条例第7条第1号本文該当)
個人に関する情報で、特定の個人が識別され得るため。
- (条例第7条第2号本文該当)
法人の内部管理に属する情報であり、公開することにより、当該法人に不利益を与えるおそれがあるため。
|
契約書の法人の印影 |
(条例第7条第2号本文該当)
法人の事業活動を行う上での内部管理に属する情報であり、公開することにより、当該法人に不利益を与えるおそれがあるため。 |
本件行政文書2
非公開部分 |
非公開理由及び考え方 |
委任状のうち代理人の氏名、職名、所属する団体名及び団体の所在地並びに委任年月日を除く部分 |
(条例第7条第1号本文該当)
個人に関する情報で、特定の個人が識別され得るため。
(条例第7条第2号本文該当)
法人の内部管理に属する情報であり、公開することにより、当該法人に不利益を与えるおそれがあるため。 |
401号~450号 451号~500号 501号~