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答申
香川県警察本部長(以下「処分庁」という。)が行った非公開決定(以下「本件処分」という。)は、妥当である。
審査請求人は、平成16年6月9日付けで、香川県情報公開条例(平成12年香川県条例第54号。以下「条例」という。)第5条の規定により、処分庁に対して「98年度~03年度に警察本部(全課)で支出した、捜査費(国費)・捜査報償費(県費)の領収書のうち、当該捜査費または捜査報償費を受領したもの以外の氏名または住所が記載されたものと情報公開請求日現在で実施機関において認識しているもの」の公開請求を行った。
処分庁は、公開請求のあった行政文書として「平成14年度及び平成15年度に、香川県警察本部で支出した、捜査費の捜査費支払証拠書又は県費報償費の報償費支払証拠書に添付された領収書のうち、当該捜査費又は県費報償費を受領したもの以外の氏名又は住所が記載されたものと情報公開請求日現在で、香川県警察本部において認識しているもの」(以下「本件領収書」という。)を特定し、条例第7条第1号又は第5号に該当するとして、平成16年7月22日付けで本件処分を行い、審査請求人に通知した。
審査請求人は、本件処分を不服として、平成16年9月22日付けで、行政不服審査法(昭和37年法律第160号)第5条の規定により香川県公安委員会(以下「諮問庁」という。)に対して審査請求を行った。
「非公開決定処分を取り消すとの裁決を求める」というものである。
審査請求書における主張は、おおむね次のとおりである。
本来、「偽名」であるなら、公開しても、非公開理由のような支障はないはずであるし、氏名や住所を非公開にしなければならないケースがあるとしても、金額はその支出が適正であるかどうかの判断をするために公開されるべきである。
さらに、仮に非公開とせざるを得ない正当な理由があって、黒塗り部分の多い形になるとしても、その黒塗りの領収書が何枚あるか、というのも県民に公開されるべき一つの情報と考えられるが、本件では、何枚の偽名領収書があったのかも明らかにされていない。
領収書の枚数を公開することが捜査に支障を及ぼすとは到底考えられない。警察業務という特殊性はあるにしても、だからといって、「捜査に支障を及ぼす」という非公開理由を濫用することは許されない。
このような非公開理由が認められるなら、警察に関する情報はほとんどが公開されないことになる。
各地の警察で捜査費等の不正支出が大きな問題となっている今、警察への信頼回復のためにも、公開して差し支えない情報は当然公開すべきである。
意見書による主張は、おおむね次のとおりである。
非公開にせざるを得ない正当な理由があり、黒塗りの部分の多い形になるとしても、その黒塗りの偽名領収書が何枚あるかを公開すべきである。
例えば、支払時期によって、協力者が推定されるというなら、支払時期等を非公開として、金額だけを公開することによって、県警が弁明書の中で述べている非公開事由には該当しなくなるケースもあるはずである。
さらには、一般論として、すべて黒塗りの文書だとしても、そうした文書が何枚あるのか、というのが一つの情報であるという考え方もある。
黒塗りの形では情報としての意味がないから公開もしなかったのか、それとも、何枚あるのかということが公開されるだけでも協力者が特定又は推定されることになると考えているのか。後者であるとしたら、完全な黒塗りの領収書の枚数をどのように他の情報と照合、比較すれば、協力者が特定又は推定できるのか。
他の都道府県の警察において捜査費の不正支出が大きな問題となっていることを考えると、県民の納得の得られない理由で偽名領収書を非公開にする姿勢こそ、県民との信頼関係を損ない、今後の県警のさまざまな活動に大きな支障を及ぼすおそれがある。
意見陳述による主張は、おおむね次のとおりである。
捜査に支障があるという理由で、警察が出せない情報があるのは、当然のことであると考えている。
しかし、他の都道府県では、裏金が作られているということが内部告発で明らかとなっており、内部告発をした者は、これは一部の警察だけで起きていることではないと言っている。また、他の都道府県では、裏金を接待に使い、現場で捜査をしている者のところに必要なお金が下りてこないという状況もあったとのことである。
条例の非公開の規定が拡大解釈されてしまえば、県警が実施機関に入った意味がなくなる。
今回の問題については、そのような観点から取り組んでいる。
また、他の都道府県では、捜査協力者とされた人の中に自分は協力はしたが謝礼はもらってないという人も出てきており、警察自体が信頼を得られない状況のままこの問題を伏せてしまうことは、警察への信頼を失わせるという大きなマイナスになる。
仮にこれまで問題があったとしたら、それをきちんと出して、検証し、明らかにした上でなければ、本当の意味での再発防止にならない。
警察の体質改善という意味からも、この問題は重要である。
また、金額というのも気になるところである。
捜査諸雑費で払うものは軽微なものに限るとのことであるが、軽微とはどの程度かというと、全く分からない。
県警が言うように支出の時期によって協力者が特定されるということなら、例えばかなりの部分が黒塗りになったとしても、金額は出せるはずであり、それさえも捜査に支障があり、協力者に危害がおよぶという理由で非公開にするということであれば、疑わざるを得ない。
基本的には偽名であれば本人に迷惑がかかることも考えられず、公開すべきであると考えられるし、捜査上の支障についても、県警全体として同時進行で複数の事件を取り扱っていると考えられ、特定の課の支出というのではなく、県警全体として支出時期が明らかになったところで、捜査上の支障があるとは考えられず、公開すべきである。
自分としては、真っ黒の紙でもそれが何枚あるかということで意味があると考えている。香川県では黒塗りであっても何枚くらいあるのかということが出てくるだけでも、自分としては一つの情報であると考えており、今回は、偽名の領収書に絞って審査請求をしたが、全く何も出ないというのはおかしいと思う。
審査会では、全くの非公開というときの非公開の程度も含めて判断して欲しい。
追加意見書における主張は、おおむね次のとおりである。
非公開理由等説明書及び意見陳述による説明は、おおむね次のとおりである。
条例第7条第1号では、個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの又は特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがあるものを非公開情報と定めている。ただし、本号のただし書に掲げる情報については、非公開情報から除くこととしている。
また、条例第7条第5号では、公にすることにより、犯罪の予防、鎮圧又は捜査、公訴の維持、刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると実施機関が認めることにつき相当の理由がある情報を非公開情報と定めている。
条例は、その第1条にあるように、県民の行政文書の公開を求める権利を具体的に明らかにするとともに、行政文書の公開に関し必要な事項を定めることにより、県の保有する情報の一層の公開を図り、県政に関し県民に説明する責務が全うされるようにし、県政に対する県民の理解と信頼を深め、もって地方自治の本旨に即した県政の発展に寄与することを目的として制定されたものであり、審査に当たっては、これらの趣旨を十分に尊重し、関係条項を解釈し、判断するものである。
また、非公開情報の該当性の判断に当たっては、処分庁の非公開理由のうちのいずれかに該当すると判断した情報については、他の非公開理由の該当性についての判断は行わないものである。
本件領収書は、実施機関の職員が、捜査協力者に対して謝礼として現金を支払った際に、当該捜査協力者から徴した領収書であり、実施機関が各月ごとに整備する支払証拠書において、支払の証拠書類として添付されているものである。
本号は、公にすることにより、公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると実施機関が認めることにつき相当の理由がある情報は非公開とすることを定めたものであると解される。
この基本的な考え方に基づき、本件領収書に係る本号の妥当性について検討する。
審査会で本件領収書を見分したところ、金額、受取年月日、氏名等の記入事項がいずれも手書きであることが確認でき、実施機関に確認したところ、捜査協力者が自ら書いたものであるとの回答を得た。
したがって、本件領収書が実施機関の犯罪捜査において取得したものであるということ、及び、捜査協力者となり得る者は一般的には事件に何らかの関連を有している者であると考えられることを考え合わせると、仮に本件領収書を公開した場合は、既に犯罪を実行し、又は、これから犯罪を企図している者、団体等は、自らの周辺に実施機関への捜査協力者がいるのではないかと疑いをもって周辺の関係者の筆跡と個別に照合するであろうことは想像に難くないところであり、捜査協力者がこれら犯罪者等の周辺にいる場合は、各記入事項の筆跡から当該捜査協力者が誰であるかを特定できる可能性は高いと考えられる。
このように捜査協力者が特定された場合は、実施機関が捜査協力者の信頼を失って当該捜査協力者からの今後の捜査協力等が困難になるだけには止まらず、当該捜査協力者はもとよりその配偶者や子など家族や関係者の身体に危害がおよび、その生命が危険にさらされるおそれがあるとともに、犯罪捜査情報が犯罪者等に洩れた場合は、証拠隠滅や対抗措置をとられるおそれがあると考えられる。
また、公開の結果、捜査協力者の特定には当面至らなかったとしても、当該捜査協力者は、自らが捜査協力者であることが何らかの機会に明らかとなって上記のような危害を受けるかも知れないという危惧を常に抱いて生活せざるを得ないものと考えられるが、そのような状況におかれることを承知して実施機関の犯罪捜査に協力をする者がいるとは考えられず、本件領収書を公開した場合は、今後、実施機関における捜査協力者の確保に支障を生じるおそれがあると考えられる。
以上のことから、本件領収書については、公開することにより、犯罪の予防、鎮圧又は捜査、公訴の維持、刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると実施機関が認めることにつき相当の理由があるものと認められ、条例第7条第5号により非公開妥当と判断されるとともに、金額、日付等についても、いずれも捜査協力者の自書であることから、それらのみを公開することもできないと判断される。
また、審査請求人の種々の主張は、いずれも当審査会の判断を左右するものではない。
なお、審査請求人は、意見陳述において「自分としては真っ黒の紙でもそれが何枚あるかということで意味があると考えている」として、当審査会に対して非公開の程度の判断を求める旨述べているが、このことは、行政文書の一部公開について定めた条例第8条により判断されるべき事項である。
すなわち、条例第8条では、非公開情報が記録されている部分を除いた部分に有意の情報が記録されていないと認められるときは当該部分を公開する必要がない旨が定められており、この「有意の情報が記録されていないと認められるとき」とは、非公開情報を除いた残りの部分がそれ自体としては無意味な文字、数字、象形、単なる枠のみとなる場合及び公表済みの資料並びに周知の事実のみとなる場合等を指すものであると解されるところ、黒く覆われている行政文書にそのような有意の情報が記録されているとは認められず、同条の規定による一部公開の必要があるとは認められない。
よって、当審査会は、「第1 審査会の結論」のとおり判断する。
当審査会は、本件諮問事件について、次のとおり審査を行った。
(省略)
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