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公開日:2020年3月5日

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令和2年2月25日 答申第529号(香川県情報公開審査会答申)

令和2年2月25日 答申第529号

答申

第1 香川県情報公開審査会(以下「審査会」という。)の結論

本件審査請求の対象となった行政文書につき、香川県東讃保健所長(以下「処分庁」という。)が、その全部を非公開とした決定については、これを取り消し、当該文書を対象として、記録されている情報ごとに改めて公開・非公開を判断すべきである。

第2 審査請求に至る経緯

1 行政文書の公開請求

審査請求人は、平成30年12月28日付けで、香川県情報公開条例(平成12年香川県条例第54号。以下「条例」という。)第5条の規定により、実施機関に対し、次の内容の公開請求(以下「本件請求」という。)を行った。

平成30年8月9日の報道発表「結核集団感染の発生について」の事案について、詳細のわかる資料。特に患者本人や同僚、勤務先の上司への聞き取り記録などで、来日までの経緯、日本での生活状況、農場での勤務状況、受診までの経緯、帰国の理由がわかる文書。

2 処分庁の決定

処分庁は本件請求に係る行政文書として、結核登録票(4名分)を特定し、次の「公開しない理由」に該当するとして、平成31年1月11日付けで非公開決定処分を行い、審査請求人に通知した。

個人に関する情報であって、患者の氏名や生年月日等、個人を特定できるもの及び、患者の治療状況等、公にされることにより個人の人格権を侵害するおそれがあるため。(条例第7条第1号本文該当)
実習先等法人の情報が記載されており、これを公にすることにより当該法人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるため。(条例第7条第2号本文該当)

3 審査請求

審査請求人は、非公開決定処分を不服として、平成31年3月11日付けで、行政不服審査法(平成26年法律第68号)第2条の規定により実施機関に対して審査請求を行った。

第3 審査請求の内容

1 審査請求の趣旨

本件審査請求の趣旨は、審査請求に係る処分を取り消し、結核登録票に加えて、本件請求の趣旨のとおり、保有文書を公開することを求めるものである。

2 審査請求の理由

審査請求書において主張している理由は概ね次のとおりである。

実施機関が非公開とした当該文書の内容は、すでに平成30年8月9日付の記者発表「結核集団感染の発生について」において公にされている情報であって、非開示とすべき理由はなく、条例の適用を誤っていると考える。
さらに感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成10年法律第114号。以下「感染症法」という。)に基づく結核に関する特定感染症予防指針(平成19年厚生労働省告示第72号。以下「指針」という。)においては、同法16条の規定に基づき、住民に注意喚起を目的として、積極的に情報を公表することが求められており、これに反すると考える。

3 反論書による主張

反論書による主張は概ね次のとおりである。

審査請求人は、結核登録票だけの開示ではなく、生活状況や治療の経過などが分かる記録の開示を求めている。結核登録票だけの非公開決定処分は不当である。審査請求人は、患者の氏名や生年月日などの個人情報、企業名等の開示は求めていない。実施機関の意見は、審査請求人が氏名や生年月日などの個人情報、企業名の開示を求めているかのように記しているが、誤りである。
審査請求人は、上記のとおり、患者の生活状況や治療の経過など、保健所がどのような結核集団感染に対し、どのような指導を行ったかの開示を求めている。
以上の点で、実施機関の意見は不当である。

第4 実施機関の説明の要旨

弁明書による説明は概ね以下のとおりである。

処分の理由及び審査請求書に対する実施機関の意見

実施機関は、次の理由から非公開決定処分を行った。

審査請求人は、実施機関が非公開とした当該文書の内容は、すでに平成30年8月9日付の記者発表「結核集団感染の発生について」において公にされている情報であって、非開示とすべき理由はなく、条例の適用を誤っていると考えている。さらに指針においては、同法第16条の規定に基づき、住民に注意喚起を目的として、積極的に情報を公表することが求められており、これに反すると考えると主張しているが、非公開決定処分とした条例の該当性については、次のとおりである。

  1. 結核登録票は、個人に関する情報であって、患者の氏名や生年月日等、個人を特定できるもの及び、患者の治療状況等、患者カルテと同様、公にされることにより個人の人格権を侵害するおそれがあり、条例第7条第1号本文に該当する。
  2. 結核登録票には、実習先等法人の情報が記載されており、これを公にすることにより当該法人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあり、条例第7条第2号本文に該当する。
  3. 審査請求人は実施機関が非公開とした当該文書の内容は、すでに平成30年8月9日付の記者発表「結核集団感染の発生について」において公にされている情報であって、非開示とすべき理由はなく、条例の適用を誤っていると考えると主張しているが、結核登録票には、記者発表資料で公表されていない個人情報等が記載されており、患者カルテと同様、慎重な取り扱いが求められる。
  4. 審査請求人は、指針においては、同法第16条の規定に基づき、住民に注意喚起を目的として、積極的に情報を公表することが求められており、これに反すると考えると主張しているが、同法第16条第2項においては、「前項の情報を公表するに当たっては、個人情報の保護に留意しなければならない」とも明記している。
    また、指針においても、情報を公表する際には、「個人情報の取扱いに十分配慮をしつつ、個々の事例ごとに具体的な公表範囲を検討すべきである」と明記している。
    感染症のまん延を防止するための情報は、適切な方法により公表することが必要であるが、個人に関する情報である結核登録票は、患者カルテと同様、慎重な取扱いが求められる。このことから、患者の氏名や生年月日等、個人を特定できるもの及び、患者の治療状況等、公にされることにより個人の人格権を侵害するおそれがあり、条例第7条第1号本文に該当する。
    以上のことから、非公開決定処分は、適法かつ妥当なものである。

第5 審査会の判断

1 判断における基本的な考え方について

条例は、その第1条にあるように、県民の行政文書の公開を求める権利を具体的に明らかにするとともに、行政文書の公開に関し必要な事項を定めることにより、県の保有する情報の一層の公開を図り、県政に関し県民に説明する責務が全うされるようにし、県政に対する県民の理解と信頼を深め、もって地方自治の本旨に即した県政の発展に寄与することを目的として制定されたものであり、審査に当たっては、これらの趣旨を十分に尊重し、関係条項を解釈し、判断するものである。

2 結核登録票について

結核登録票は、保健所がその管轄する区域内に居住する結核患者及び結核回復者ごとに、その情報を管理する帳票である(感染症法第53条の12)。これには、結核患者又は結核回復者の住所、氏名、生年月日などの基本的な情報及びその病状等に関する情報に加え、これらの者に対し保健所がとった措置の概要や、保健所が指導上必要と認める事項などの情報を記載することとされている(感染症法の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律施行規則(平成10年厚生省令第99号)第27条の8)。

3 本件における請求対象文書の特定の妥当性について

本件請求は、「平成30年8月9日の報道発表「結核集団感染の発生について」の事案について、詳細のわかる資料。特に、患者本人や同僚、勤務先の上司への聞き取り記録などで、来日までの経緯、日本での生活状況、農場での勤務状況、受診までの経緯、帰国の理由がわかる文書。」の公開を請求したものであり、処分庁は、感染症法第53条の12に基づき保健師が作成した、結核登録票を行政文書として特定した。
これに対し、審査請求人は、本件請求において、結核登録票だけではなく、処分庁が保有する請求対象文書全般を公開すべき旨、反論書において主張している。
そこで、処分庁が行った請求対象文書の特定の妥当性について、以下検討する。
処分庁に確認したところ、本件請求内容に合致する行政文書は、結核登録票以外には作成しておらず、その他の行政文書は保有していないとのことである。
審査会において見分したところ、結核登録票には、上記2で述べた法定記載事項として、結核患者又は結核回復者の住所、氏名、生年月日などの基本的な情報やその病状、治療状況等に関する情報(以下「患者等診療情報」という。)、及び事案の発生に伴い行政機関たる保健所がとった対応に関する情報(結核集団感染に関するものを含む。以下「行政情報」という。)が細かく記録されている。このように、結核集団感染に関する情報は網羅していることからすると、結核登録票以外に特段行政文書を作成すべき必要性があるとは認められない。
よって、結核登録票以外に行政文書を保有していないとの処分庁の説明に不合理な点はなく、処分庁が行った請求対象文書の特定は妥当である。

4 非公開情報該当性について

  • (1)結核登録票について
    感染症法の目的は、感染症の発生を予防し、及びそのまん延の防止を図り、もって公衆衛生の向上及び増進を図ることである(感染症法第1条)。上記3で認定したとおり、結核登録票には、患者等診療情報だけでなく、行政情報が細かく記録されている。これらのことから、結核登録票は、感染症法の目的達成のため、結核患者及び結核回復者に対する結核予防及びその医療上必要な指導や感染拡大の防止に必要な措置を行うため重要な役割を持つものである。
    一方で、感染症の患者等に対しては、いわれのない差別や偏見が存在したという事実を重く受け止め(感染症法前文)、感染症法第2条ないし第4条に定める基本理念、国及び地方公共団体並びに国民の責務規定には、感染症の患者等の人権を尊重しこれが損なわれることがないようにしなければならない旨が規定されている。その趣旨からすると、結核登録票は、感染症の予防及びそのまん延を防止する措置の一環として公益上の要請から作成される文書ではあるものの、その取扱いについては人権尊重の観点から、最大限配慮しなければならない。
  • (2)結核登録票の全部非公開の妥当性について
    • ア 本件の争点
      本件において、処分庁は「第4 実施機関の説明の要旨」の1及び4にて、結核登録票は、個人に関する情報であって、患者の氏名や生年月日等、個人を特定できるもの及び、患者の治療状況等、患者カルテと同様、公にされることにより個人の人格権を侵害するおそれがあり、条例第7条第1号本文に該当すると主張する。また、同要旨2では、結核登録票には実習先等法人の情報が記載されており、これを公にすることにより当該法人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあり、同条第2号本文にも該当することを主張している。
      これに対し、審査請求人は患者の氏名や生年月日などの個人情報、企業名等の公開は求めておらず、生活状況や治療の経過など、保健所がどのような結核集団感染に対し、どのような指導を行ったのかが分かる記録の部分を一部公開すべきであるとして、非公開決定処分を不服としている。条例第8条は一部公開が可能な場合について定めている。そこで当審査会では、条例第8条に照らし、結核登録票が一部公開すべきものであるかどうかについて、以下検討する。
    • イ 条例第8条(行政文書の一部公開)について
      条例第8条第1項は、「実施機関は、公開請求に係る行政文書の一部に非公開情報が記録されている場合において、非公開情報が記録されている部分を容易に区分して除くことができるときは、請求者に対し、当該部分を除いた部分につき公開しなければならない。ただし、当該部分を除いた部分に有意の情報が記録されていないと認められるときは、この限りでない。」と定めている。
      さらに、同条第2項は「公開請求に係る行政文書に前条第1号の情報(特定の個人を識別することができるものに限る。)が記録されている場合において、当該情報のうち、氏名、生年月日その他の特定の個人を識別することができることとなる記述等の部分を除くことにより、公にしても、個人の権利利益が害されるおそれがないと認められるときは、当該部分を除いた部分は、同号の情報に含まれないものとみなして、前項の規定を適用する。」とし、個人に関する情報に係る特例的な取扱いを設けることにより、同条第1項の規定を適用すべきことを定めている。
      これらの趣旨は、県の説明責任を全うするという、条例の目的を達成するため、請求の対象となる行政文書に、条例第7条各号に該当する非公開情報が含まれていたとしても、非公開とすべき部分が容易に区分でき、かつ有意の情報が存在するのであれば、最大限公開するということにある。
      したがって、結核登録票において、文書の記録内容から、非公開部分とそれ以外の部分が容易に区分でき、非公開部分を除いたとしても有意の情報が存在するのであれば、処分庁は一部公開決定をすべきであるといえる。ただし、条例第7条第1号に該当するものについては個人の権利利益が害されるおそれがないものと認められるものに限って一部公開が可能となる。
    • ウ 本件における一部公開の要否について
  • (ア)以上を前提に、結核登録票が一部公開すべきものか検討する。
  • (イ)まず、記録されている各情報について、処分庁の主張する条例第7条第1号及び第2号の該当性をみる。
    結核登録票は結核患者個人ごとに作成されるものであり、各情報はその様式に設けられた欄等の区分に応じ、整理されて記録されている。これらの情報は、全て特定の結核患者個人に関連したものであり、記録されている各情報を組み合わせることにより特定の個人を識別することができるものであるから、条例第7条第1号本文に該当する。ただし、これらの情報のうちには、感染症法第16条の規定に基づき公表され、既に公になっている情報又はその部分も認められることから、当該情報又はその部分は条例第7条第1号ただし書アに該当する。
    他方、条例第7条第2号本文該当性については、結核登録票の一部に実習先等法人に関する記録が認められるものの、結核登録票に記録された各情報の全てが条例第7条第2号本文に該当するとは認められない。
    そして、前述のとおり、結核登録票は大別して患者等診療情報と行政情報から成り、各情報はその内容等に従いこれが記録されるべき箇所に区分されて記録されるなど、十分に可分な状態にある。また、患者等診療情報と行政情報は、いずれも特定の結核患者等に関する情報であるものの、前者は自己の病状に関する情報など、プライバシー性の高い情報が記録されているのに対し、後者は行政事務の経過を記載するのに付随する限度で患者その他の個人に関する情報が記録されている、あるいは各情報単体でとらえれば特定の個人が識別不能な情報のみが記録されているなど、その記録の態様には大きな差がある。したがって、以下で述べる一部公開の要否を検討する際には、患者等診療情報と行政情報とに分けて考慮されるべきである。
  • (ウ)次に、患者等診療情報における一部公開の要否についてみる。
    患者等診療情報は、いわゆるカルテ等に記録される情報に類似していることが認められる。そして、カルテ等の個人の人格等と密接に関連する情報は、個人識別性のある部分を除いたとしても、公になると個人の権利利益を害するおそれがあるため、一部公開は相当ではない。もっとも、感染症法第16条の規定に基づき公表された情報については、条例第7条第1号ただし書アに該当するとともに、権利利益を害するおそれがないと認められるため、公開すべきである。
  • (エ)最後に、行政情報における一部公開の要否についてみる。
    一見すると、行政情報についても、患者等診療情報と相互に関係している以上、患者等診療情報と同様に、特定の個人を識別できないもの、又は特定の個人を識別することができることとなる記述等の部分を除くことにより特定の個人を識別できないようになったものであっても、公になると個人の権利利益を害するおそれがある情報であるとも考えられる。
    しかし、前述のとおり、感染症法の目的は公衆衛生の向上及び増進を図ることにあり、結核登録票はこのような公益上の要請から作成される文書である。そして、そのような公益的な側面があることを鑑みれば、感染症に関する必要な情報の積極的な公表を定めた感染症法第16条の規定をまたずして、感染症の集団感染が発生したときに行政がどのような対応をしたか、例えば、結核の発症をいつ把握し、関係機関がどのような対応をしたのか等の情報は、県政に関し県民に説明する責務が全うされるよう、最大限公開すべきとの要請が働くのは当然である。
    以上のようなことを踏まえると、行政情報は、いわゆるカルテ等に記録される情報とは異なる性質の情報であり、公開することにより侵害される権利利益の範囲や程度も、カルテ等に記録される情報のそれとは異なるといわざるを得ない。すなわち、行政情報にあっては、少なくとも当該記述から特定の個人が識別することができることとなる記述の部分を除けば、それ以外の部分については、公開しても結核患者等の権利利益が害されるおそれはないと十分認められ得る。
    したがって、結核登録票に記録された行政情報については、既に公になっている情報が記録されている部分はもちろん、特定の個人を識別することができることとなる記述の部分を容易に区分して除くことができるときは当該部分を除いた部分についても、他の非公開情報に該当しない限り、条例第8条の規定によりこれを公開しなければならない。
  • (オ)以上のとおり、結核登録票に含まれている各情報は可分であり、条例第8条に基づく一部公開を検討すべきであり、結核登録票の全部を非公開とすることはできない。

5 結論

上記4のとおり、結核登録票が一部公開すべきものであることは明らかであり、同4(ウ)及び(エ)により公開されるべき情報又はその部分については、条例第8条の規定により公開すべきものである。したがって、結核登録票の全部を非公開とした処分庁の処分には理由がなく、これを取り消すべきであり、処分庁は記録されている情報ごとに改めてその判断を行うべきである。

6 結語

以上の理由により、当審査会は、「第1 審査会の結論」のとおり判断する。

第6 審査会の審査経過

(省略)

401号~450号 451号~500号 501号~

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