平成26年3月24日 答申第506号(香川県情報公開審査会答申)
平成26年3月24日(答申第506号)
答申
第1 香川県情報公開審査会(以下「審査会」という。)の結論
香川県監査委員(以下「実施機関」という。)が一部公開決定(以下「本件処分」という。)により非公開とした部分のうち、別表1に掲げる行政文書(以下「本件行政文書」という。)1から4までに添付された事実証明書中の、条例を印刷したもの及び新聞記事の切り抜き(原告個人の氏名、年齢が記載された部分を除く。)については公開すべきである。
第2 異議申立てに至る経過
1 行政文書の公開請求
異議申立人は、平成25年8月21日付けで、香川県情報公開条例(平成12年香川県条例第54号。以下「条例」という。)第5条の規定により、実施機関に対し、次の内容の行政文書の公開請求(以下「本件請求」という。)を行った。
平成10年以降になされた住民監査請求に対して「却下」とした際の起案文書、当該請求人への通知文書控え及び当該住民監査請求書
2 実施機関の決定
実施機関は、公開請求のあった行政文書として、別表1に掲げる行政文書を特定し、別表2の「公開しない部分」が「公開しない理由」に該当するとして本件処分を行い、平成25年10月4日付けで異議申立人に通知した。
3 異議申立て
異議申立人は、本件処分を不服として、平成25年10月10日付けで、行政不服審査法(昭和37年法律第160号)第6条の規定により実施機関に対して異議申立てを行った。
第3 異議申立ての内容
1 異議申立ての趣旨
「本件処分を取り消すとの決定を求める。」というものである。
2 異議申立ての理由
異議申立書において主張している理由は、次のとおりである。
- (1)本件処分は、条例の解釈適用を誤った違法な処分であるから、条例上の個人情報を除く部分の本件非開示処分を取り消し、その他の全部を開示する必要がある。
- (2)本件処分の中の「請求人の住所、氏名、職業、電話番号、印影」の各個人情報を除く部分は、条例上の非開示情報に該当しないので、すべて開示する必要がある。
第4 実施機関の説明の要旨
非公開理由等説明書による説明は次のとおりである。
条例第7条第1号では、個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの又は特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがあるものを非公開情報と定めている。ただし、本号のただし書に掲げる情報については、非公開情報から除くこととしている。
本件行政文書のうち、起案文書中の住民監査請求の趣旨及び住民監査請求の理由など住民監査請求人の意見、考え方等が反映されている部分(以下「住民監査請求の趣旨等」という。)並びに住民監査請求書は、特定の個人を識別することができる個人に関する情報に該当する。
これは、「地方自治法(昭和22年法律第67号。以下「法」という。)第242条第1項による住民監査請求は、(中略)全体として特定個人の意見、考え方等が反映されているものであり、個人に関する情報であると考えられる。」とする香川県情報公開審査会の判断(平成16年9月24日答申第292号)に基づいたものである。
なお、本件行政文書のうち、1から4までについては、法第242条第4項の規定により監査の結果を公表していることから、起案文書中の住民監査請求の趣旨等及び住民監査請求書(事実証明書を除く。)は、本号のただし書アに該当する。
第5 審査会の判断理由
1 判断における基本的な考え方について
条例は、その第1条にあるように、県民の行政文書の公開を求める権利を具体的に明らかにするとともに、行政文書の公開に関し必要な事項を定めることにより、県の保有する情報の一層の公開を図り、県政に関し県民に説明する責務が全うされるようにし、県政に対する県民の理解と信頼を深め、もって地方自治の本旨に即した県政の発展に寄与することを目的として制定されたものであり、審査に当たっては、これらの趣旨を十分に尊重し、関係条項を解釈し、判断するものである。
2 本件行政文書の内容等について
本件行政文書の内容は、次のとおりである。
本件行政文書のうち、1から4までは、法第242条第1項の規定に基づく住民監査請求に対して、監査を行い却下することを決定し当該請求人に通知するとともにその結果を公表した起案文書であり、事実証明書が添付された住民監査請求書が添付されている。
また、本件行政文書のうち、5から39までは、法第242条第1項の規定に基づく住民監査請求に対して、要件を欠く不適法な請求であるとして却下することを決定し当該請求人に通知した起案文書であり、事実証明書が添付された住民監査請求書が添付されている。
3 当審査会の審査対象について
異議申立書によると、異議申立人が公開を求めるのは、本件処分のうち「請求人の住所、氏名、職業、電話番号、印影」の各個人情報を除く部分、すなわち、行政文書1から4までについては「事実証明書」、行政文書5から39までについては「住民監査請求の趣旨及び住民監査請求の理由など住民監査請求人の意見、考え方等が反映されている部分並びに住民監査請求書」であると認められるので、これらの部分の非公開情報該当性についてそれぞれ判断する。
4 非公開情報該当性について
条例第7条第1号は、個人の尊厳及び基本的人権の尊重の立場から、個人のプライバシーを最大限に保護するために定められたものであるが、プライバシーの具体的な内容が法的にも社会通念上も必ずしも明確ではなく、その内容や範囲は事項ごと、各個人によって異なり得ることから、本条例は、プライバシーであるか否か不明確な情報も含めて、特定の個人が識別され得る情報を包括的に非公開として保護することとした上で、さらに、個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがあるものについても、非公開とすることを定めたものである。
しかし、これらの個人に関する情報には、個人の権利利益を侵害しないと考えられ非公開とする必要のない情報及び公益上の必要があると認められる情報も含まれているので、これらの情報を本号ただし書で規定し、公開することを定めたものと解される。
条例第7条第4号は、県の機関等が行う事務又は事業の目的達成又は適正な執行の確保の観点から、当該事務又は事業に関する情報の中で、当該事務又は事業の性質、目的等からみて、執行前あるいは執行過程で公開することにより、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある情報については、非公開とすることを定めたものであると解される。
これら基本的な考え方に基づき、実施機関が非公開とした部分について以下検討する。
- (1)行政文書1から4までについて
- (a)条例第7条第1号の該当性について
法第242条第1項による住民監査請求は、普通地方公共団体の職員等について違法又は不当な財務会計行為があると認めるときに、監査委員に対し監査を求め、必要な措置を講じることを請求する制度であり、全体として特定個人の意見、考え方等が反映されるものであり、個人に関する情報であると考えられる。また、事実証明書は、請求人が、請求書の中で問題とされている行為や事実の存在あるいはその違法性や不当性を明らかにするために請求書に添付する文書であり、請求書と一体となり全体として特定個人の意見、考え方等が反映されているといえるため、個人に関する情報にあたると考えられる。
これらについて、監査委員が当該請求を受理して監査を行い、棄却、勧告、却下の決定が行われた場合、法第242条第4項に基づき住民監査請求の趣旨等は公表されるが、事実証明書そのものは同項の公表の対象とされていない点は、実施機関の主張するとおりである。
もっとも、請求書の内容を具体的に示す文書であるという事実証明書の性質に照らせば、事実証明書に反映された特定個人の意見、考え方等は公表された住民監査請求の趣旨等によってすでに公になっていると考えられる。
したがって、本件行政文書1から4までにおいて非公開とされている事実証明書については、条例第7条第1号ただし書アに該当すると判断される。ただし、そのうち新聞記事に掲載された原告個人の氏名・年齢については、特定の個人を識別することができる個人に関する情報にあたるため、当該部分についてはなお条例第7条第1号本文に該当すると判断される。
なお、実施機関が引用する香川県情報公開審査会答申第292号は、監査請求の要件を欠き不適法なため受理されずに却下された事案であるところ、受理前に却下された住民監査請求はその内容が公表されないことから、事実証明書に反映された特定個人の意見、考え方等も公になっておらず、本件行政文書1から4までとは事案を異にするといえる。
- (b)条例第7条第4号の該当性について
上述のとおり、法第242条第2項による住民監査請求は、普通地方公共団体の職員等について違法若しくは不当な財務会計行為があると認めるときに、監査委員に対し監査を求め、必要な措置を講じることを請求する制度であり、監査委員が当該請求を受理して監査を行い、棄却、勧告、却下の決定が行われた場合には、同条第4項によりその監査結果は公表されることとなっている。
他方、監査請求書に添付される事実証明書は、同項による公表の対象とはされておらず、一般的には、請求人においても公表を前提として提出するものではない。それにもかかわらず、事実証明書が公開されるということになれば、将来の監査請求人によっては、不安、不快の念を抱き、あるいは監査対象者、当該監査請求により不利益を受ける者や第三者からの批判、非難等を怖れるなどして、今後の住民監査請求を差し控えるなど、事実証明書の公開が、当該地方公共団体の住民の今後の住民監査請求の権能の行使に対して萎縮効果をもたらす事態も当然に予想される。そうであるとすれば、事実証明書は、公にすることにより、将来の監査事務に著しい支障を生じるおそれがある文書にあたるといえる。
もっとも、事実証明書として添付された文書自体が、新聞の切り抜き等、すでに公にされており容易に入手可能なものである場合、当該文書を公開することが、今後の住民監査請求の行使に対して萎縮効果をもたらすとは考えにくい。
したがって、本件行政文書1から4までにおける事実証明書のうち、すでに公にされており容易に入手可能な情報である、条例を印刷したもの及び新聞記事の切り抜きについては条例第7条第4号に該当せず、これらを除く部分についてのみ条例第7条第4号に該当すると判断される。
- (2)行政文書5から39までについて
上述のとおり、法第242条第1項による住民監査請求は、全体として特定個人の意見、考え方等が反映されるものであり、個人に関する情報であると考えられる。
そして、行政文書5から39までについては、監査請求の要件を欠き不適法なため受理されずに却下された事案に関する文書であるところ、このように受理前に却下された監査請求は法第242条第4項が定める公表の対象とはされていない。
したがって、本件行政文書5から39までにおいて非公開とされている住民監査請求の趣旨等及び住民監査請求書については、条例第7条第1号本文に該当し、いずれのただし書にも該当しないと判断される。
よって、当審査会は、「第1 審査会の結論」のとおり判断する。
第6 審査会の審査経過
(省略)
別表1
実施機関が特定した行政文書 |
- 住民監査請求に基づく監査結果について(平成21年3月25日付け起案文書(20監査第144号))
- 住民監査請求に基づく監査結果について(平成21年3月25日付け起案文書(20監査第145号))
- 住民監査請求に基づく監査結果について(平成21年3月25日付け起案文書(20監査第146号))
- 住民監査請求に基づく監査結果について(平成21年3月25日付け起案文書(20監査第147号))
- 住民監査請求の却下について(平成21年6月10日付け起案文書)
- 住民監査請求の却下について(平成21年7月15日付け起案文書)
- 住民監査請求の却下について(平成21年7月24日付け起案文書)
- 住民監査請求の却下について(平成21年8月19日付け起案文書)
- 住民監査請求の却下について(平成22年3月25日付け起案文書)
- 住民監査請求の却下について(平成23年2月22日付け起案文書)
- 住民監査請求の却下について(平成23年3月25日付け起案文書)
- 住民監査請求の却下について(平成23年5月16日付け起案文書)
- 住民監査請求の却下について(平成23年6月3日付け起案文書)
- 住民監査請求の却下について(平成23年6月8日付け起案文書)
- 住民監査請求の却下について(平成23年6月15日付け起案文書(23監査第42号))
- 住民監査請求の却下について(平成23年6月15日付け起案文書(23監査第43号))
- 住民監査請求の却下について(平成23年6月15日付け起案文書(23監査第44号))
- 住民監査請求の却下について(平成23年6月27日付け起案文書(23監査第51号))
- 住民監査請求の却下について(平成23年6月27日付け起案文書(23監査第52号))
- 住民監査請求の却下について(平成23年7月13日付け起案文書)
- 住民監査請求の却下について(平成23年7月14日付け起案文書)
- 住民監査請求の却下について(平成23年7月25日付け起案文書(23監査第69号))
- 住民監査請求の却下について(平成23年7月25日付け起案文書(23監査第70号))
- 住民監査請求の却下について(平成23年8月18日付け起案文書(23監査第82号))
- 住民監査請求の却下について(平成23年8月18日付け起案文書(23監査第83号))
- 住民監査請求の却下について(平成23年8月18日付け起案文書(23監査第84号))
- 住民監査請求の却下について(平成23年8月31日付け起案文書)
- 住民監査請求の却下について(平成23年9月27日付け起案文書(23監査第108号))
- 住民監査請求の却下について(平成23年9月27日付け起案文書(23監査第109号))
- 住民監査請求の却下について(平成23年9月27日付け起案文書(23監査第110号))
- 住民監査請求の却下について(平成23年10月25日付け起案文書)
- 住民監査請求の却下について(平成23年12月26日付け起案文書)
- 住民監査請求の却下について(平成24年7月12日付け起案文書)
- 住民監査請求の却下について(平成24年9月6日付け起案文書(24監査第55-2号))
- 住民監査請求の却下について(平成24年9月6日付け起案文書(24監査第56-2号))
- 住民監査請求の却下について(平成25年7月19日付け起案文書)
- 住民監査請求の却下について(平成25年7月29日付け起案文書)
- 住民監査請求の却下について(平成25年8月16日付け起案文書(25監査第46-2号))
- 住民監査請求の却下について(平成25年8月16日付け起案文書(25監査第47-2号))
|
別表2
行政文書 |
公開しない部分 |
公開しない理由 |
1~4 |
起案文書のうち、住民監査請求書の請求人の職業、電話番号、印影及び事実証明書 |
(条例第7条第1号本文該当)特定の個人が識別され得る個人に関する情報に該当するため。 |
5~39 |
起案文書のうち、住民監査請求人の住所及び氏名、住民監査請求の趣旨及び住民監査請求の理由など住民監査請求人の意見、考え方等が反映されている部分並びに住民監査請求書 |
(条例第7条第1号本文該当)特定の個人が識別され得る個人に関する情報に該当するため。 |
401号~450号 451号~500号 501号~