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答申
香川県警察本部長(以下「処分庁」という。)が行った非公開決定(以下「本件処分」という。)は、妥当である。
審査請求人は、平成16年9月10日付けで、香川県情報公開条例(平成12年香川県条例第54号。以下「条例」という。)第5条の規定により、処分庁に対し、「請求者に係る平成16年6月25日に行われた聴聞(意見の聴取を含む)において作成された全ての文書」について、公開請求を行った。
処分庁は、公開請求に係る文書が存在しているか否か答えること自体が条例第7条第1号により保護しようとする「個人に関する情報」を明らかにすることとなるとして、条例第10条の規定により、本件処分を行い、平成16年9月22日付けで、審査請求人に通知した。
審査請求人は、本件処分を不服として、平成16年10月27日付けで行政不服審査法(昭和37年法律第160号)第5条の規定により香川県公安委員会(以下「諮問庁」という。)に対して審査請求を行った。
「本行政文書の公開を求める」というものである。
審査請求書及び意見書(反論書を含む。)における主張の概要は、次のとおりである。
諮問庁による説明の概要は、次のとおりである。
条例では、自己情報を特別なものとして取り扱うことを予定していないから、公開・非公開の決定は、請求者のいかんを問わずに判断されるものである。
本件情報公開請求のように個人を特定してその個人情報の公開請求が行われた場合は、当該行政文書の存否を明らかにするだけで、特定の個人が聴聞等を受けたことがあるか否かという情報を明らかにすることとなる。
これは、個人の名誉や信用にかかわる個人情報であり、当該個人の識別性も有するものであることから、条例第7条第1号本文に該当し、条例第7条第1号ただし書イからニのいずれにも該当しない。
行政文書の存否を明らかにするだけで、条例第7条第1号に規定する非公開情報を公開することとなるから、条例第10条に該当する。
審査請求人が情報公開を請求した目的は、特定個人に関する聴聞等が適切に行われ、公安委員会に正確に報告されたかを確認するためというものであるから、本件個人情報を公開することによって得られる公益が非公開にすることにより保護される利益を上回るとは認められない。
運転記録証明書は、自動車安全運転センターが、自動車安全運転センター法(昭和50年法律第57号)に基づき、運転免許を受けた者の利便の増進を図るため、運転免許を受けた者の求めに応じて交付しているものである。
他方、情報公開条例は、公開請求をした本人自身に係る情報を特別なものとして取り扱うことを予定しておらず、また、そのような規定もしていない。
したがって、公開請求した者が誰であるかは一切考慮されず、特定の個人に関する情報については、条例第7条第1号ただし書に該当しない限り、非公開とすべきことは明らかである。
このように、同センターが交付する運転記録証明書は、自動車安全運転センター法の規定に基づくものであり、条例とはその趣旨を異にするものであるから、本件処分と矛盾するものではない。
聴聞調書等の閲覧については、行政手続法(平成5年法律第88号)等によって聴聞の当事者又は参加人に限って閲覧が認められているものであって、広く一般に公表されているものではないことから、公開・非公開の判断に影響を及ぼすものではない。
なお、意見の聴取には、閲覧規定がない。
条例は、その第1条にあるように、県民の行政文書の公開を求める権利を具体的に明らかにするとともに、行政文書の公開に関し必要な事項を定めることにより、県の保有する情報の一層の公開を図り、県政に関し県民に説明する責務が全うされるようにし、県政に対する県民の理解と信頼を深め、もって地方自治の本旨に即した県政の発展に寄与することを目的として制定されたものであり、審査に当たっては、これらの趣旨を十分に尊重し、関係条項を解釈し、判断するものである。
聴聞は、弁明の機会の付与と同様に不利益処分をしようとする場合に執られる行政手続法(平成5年法律第88号)に基づく手続であり、不利益処分の当事者について審理の場を設定した上で口頭による意見陳述、質問等の機会を与え、当事者等と行政庁側とのやり取りを経て事実判断を行うものである。
一方、意見の聴取については、聴聞のように用語として特定の手続を指すものではなく、個別法令において個別にその内容、手続等が定められている。
条例第7条第1号は、特定の個人を識別することのできる情報(個人識別情報)を原則非公開とする方式を採り、本来保護する必要のない情報については、そのただし書において、非公開情報から除かれるべきものとしてこれを限定列挙していると解される。
そして、その条文構造からすると、個人識別情報については、同号ただし書に該当しない限り、非公開情報として取り扱われることとなり、本人に関する情報か否かによる区別はされておらず、したがって、法文上、本人公開を認めない趣旨であることは明らかであると認められる。
また、審査請求人が指摘する最高裁判所判決は、兵庫県における公文書の公開等に関する条例(昭和61年兵庫県条例3号)に基づく自己の個人情報の公開請求に対し、同条例8条1号に該当することを理由に不開示とした決定について、「同号が、特定の個人が識別され得る情報のうち、通常他人に知られたくないと認められるものを公開しないことができると規定しているのは、当該個人の権利利益を保護するためであることが明らかであり、また、同条例には自己の個人情報の開示を請求することを許さない趣旨の規定等は存せず、当該請求に限っては同号により非公開とすべき理由がないものと言うことができる。」としたものである。
この判決は、当該公開請求がされた当時の同条例の規定についての解釈を示したものにすぎず、条例に自己の個人情報の公開を請求することを許さない趣旨の規定が置かれている場合等においては、そのような解釈が採り得ないことを前提としているものと解される。
したがって、当該最高裁判所判決の考え方は、上記のとおり、条例の文言から本人公開を認めない趣旨であることが明らかであると判断される現行香川県情報公開条例の解釈にまで及ぶものではなく、当審査会の判断を左右するものではない。
処分庁は、本件請求については、当該行政文書の存否を明らかにするだけで条例第7条第1号に規定する非公開情報を公開することとなるため、条例第10条により本件処分をしたとの主張をしている。
そこで、先ず、本件請求に対し、行政文書が存在するかどうか明らかにすることが、条例第7条第1号に規定する非公開情報を公開することとなるかどうかについて検討する。
本件請求は、「請求者に係る平成16年6月25日に行われた聴聞(意見の聴取を含む)において作成された全ての文書」との内容の公開請求であり、情報公開請求書には、請求者(以下「特定個人A」という。)の住所、氏名等が記載されている。
したがって、本件請求は、「特定個人Aに係る平成16年6月25日に行われた聴聞(意見の聴取を含む)において作成された全ての文書」の公開を求める内容の情報公開請求であると判断される。
よって、本件請求に対して対象となる行政文書の有無を明らかにすることは、平成16年6月25日に特定個人Aに対して聴聞又は意見の聴取が行われたか事実があるかどうかという情報(以下「特定個人Aに対する聴聞等の実施の有無という情報」という。)を明らかにすると判断される。
そこで、「特定個人Aに対する聴聞等の実施の有無という情報」が、条例第7条第1号による非公開情報に該当するかどうか検討する。
先ず、「特定個人Aに対する聴聞等の実施の有無という情報」は、明らかに、特定の個人を識別することができる個人に関する情報であることから、条例第7条第1号本文に該当すると判断される。
次に、同号ただし書の該当性について、検討する。なお、ただし書ニは、具体の行政文書の中に記録された特定の情報の公開の妥当性について定めた規定であるから、本件のように、請求対象行政文書の存否を明らかにすることによって発生する観念的な情報が非公開情報に該当するかどうかという判断においては、ただし書ニは、適用されないと判断される。
次に、条例第10条の適用について検討する。
同条は、「公開請求に対し、当該公開請求に係る行政文書が存在しているか否かを答えるだけで、非公開情報を公開することとなるときは、処分庁は、当該行政文書の存否を明らかにしないで、当該請求を拒否することができる」と規定している。
この規定の趣旨は、存否を答えることにより非公開情報を公開することとなる場合には、処分庁に対し、原則としてその存否の応答を拒否すべきこととする一方、条例第9条が規定する場合のように、公益上特に必要があると認めるときは、処分庁の裁量により、その存否について答えることができることとするものと解される。
本件公開請求についての公益性に関しては、審査請求人は、「事実を正確に把握しないままの、誤認識による聴聞については、違法性の疑いがある。公開することにより、聴聞制度の信頼性を高めることにつながるため、公益性が存在する」旨を主張している。
しかし、「特定個人Aに対する聴聞等の実施の有無という情報」を公開することが聴聞制度の信頼性を高めることにつながるとは考えられず、審査請求人が主張する公益が、特定個人Aのプライバシーを保護する公益を上回るとは認められない。
以上のことから、本件請求に対して対象となる行政文書の存否を明らかにすることは、条例第7条第1号の非公開情報を公開することと同様の結果が生じることとなるため、処分庁が、条例第10条の規定により、本件請求を拒否をしたことは妥当であると判断される。
審査請求人が指摘する「聴聞及び弁明の機会の付与に関する規則第19条」による聴聞調書等の閲覧については、行政手続法に基づく聴聞の際の手続を定めたものであり、意見の聴取に適用されるものではないが、そもそもこのような制度は同法及び関連する法令に基づき、本人、当事者等を対象としてなされる制度であり、条例による情報公開の妥当性の判断を左右するものではない。
また、審査請求人のその余の主張も、当審査会の判断を左右するものではない。
よって、当審査会は、「第1 審査会の結論」のとおり判断する。
(省略)
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