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15時10分~16時30分
コーディネーター 新田恭子(フリーアナウンサー)
パネリスト 岡村精二(NPO法人「森と海の学校」理事長)
〃 松崎了三(元高知県馬路村村おこし委員)
〃 牧 裕子(NPO法人「どんぐりネットワーク」理事)
〃 笠原良二(株式会社直島文化村代表取締役総支配人)
直島で循環型社会のモデル地域としてまちづくりを進めるために、「守ろうみどり、創ろうにぎわい~環境とまちづくりの調和とは~」をテーマに、各方面で実際に、まちづくりや人づくりに活躍されている先生方の、ご自身の経験に基づいた意見を元に、また皆様と目線を同じくした視点から、住民の自発的な参加による、環境と調和したまちづくりについてディスカッションしていただきます。
それでは、皆さんをご紹介いたしましょう。
NPO法人「森と海の学校」理事長
岡村精二(おかむらせいじ)さん。
元高知県馬路村村おこし委員
松崎了三(まつざきりょうぞう)さん。
NPO法人「どんぐりネットワーク」理事
牧 裕子(まきゆうこ)さん。
株式会社直島文化村代表取締役総支配人
笠原良二(かさはらりょうじ)さん。
最後に、コーディネーター
新田恭子(にったやすこ)さん。
それでは、新田さん、よろしくお願いします。
(新田)
今回のパネリストはすごく面白い方々なので、それぞれの体験談などを聞きながら、直島の進むべき道や、こんな風に直島がなっていけばいいなというイメージを会場のみなさんに描いてもらえればと考えています。
最初に、パネリストのみなさんに、今回のシンポジウムに期待するものを一言お願いします。
まず笠原さんですが、直島代表として、直島の文化・環境などいろいろ踏まえて、直島がこれからどうなるべきか、直島文化村の活動の紹介も兼ねてお願いします。
(笠原)
直島は環境の島としてこれから注目を浴び、また、そのキャッチフレーズのもとで様々に展開していこうとしています。私も常に、環境の島とはどうあったらいいのか考えています。リサイクル工場ができることは大きな柱ではありますが、それだけではないことは会場のみなさんも考えていることだと思います。今日お越しになっているパネリストの方々は、それぞれの地域で、環境やまちおこしの切り口で活動されている方が来られているので、私もいろいろなことを聞きながら、これから、直島を環境の島として発展させるには、またアートや歴史などを絡めるならどうすればいいのか、一つでも二つでも取っ掛かりやアイディア・ヒントがつかめればいいなと思っています。
(新田)
笠原さんからは、実際何があれば、何がそろっていれば、名実ともに環境の島になるのだろうか、という話でしたが、例えば人であったり産業であったりするわけです。
ここで、環境を産業にしたらどうか、という観点から松崎さんにお聞きしたいと思います。ごっくん馬路村で有名になった、仕掛け人の一人である松崎さんにお話を、実際やってきたことも含めて、お伺いしたいと思います。
(松崎)
高知県の馬路村は、人口1200人足らずの柚子しかない村でした。
私が馬路村と関わるようになったきっかけは、農協との出会いでした。当時、農協はパートが3人ほどしかいなく、年間の売上は8500万円程度でした。馬路村は、昔から林業で生活してきたが、天然木がなくなってしまい産業として成り立たなくなりました。そこで何とか、村にある柚子を利用して自分達の産業を興そうと頑張ってきました。その結果、農協の年間売上は約27億2000万円になりました。
私は、地域を元気にするためには、その地域にあるものが最終的には地域の産業として成長しなければならないと考えています。そうでなければ持続性がなくなりますから。
馬路村では、一人ずつ村のファンを作っていきました。情報化が進むとどんな田舎でも全国を相手に商売ができます。電話1本あれば全国のお客様に商品が届けられます。そこで15年前、通信販売に目を付けました。つまり直販、産直です。現在は全国に38万人のファン、お客さんがいます。
通信販売を進めていくと、お客さんは、送られてくるパンフレットを見て、きれいな景色やきれいな川があるらしい、面白そうな村だ、一回行ってみるかと思うようになるのです。そこで、人に来てもらうきっかけ作りとして、通信販売のお客さんに馬路村の温泉の無料券を配りました。その結果、柚子で村が少し元気になりました。
ここ、直島が環境の島というのなら、例えば島民が番人になって、フェリーから降りて上陸する人々に、「わたしは環境を汚しません」と一人ひとり宣言してもらうのも一つの案として面白いのではないでしょうか。誓わない人には帰ってもらってもいいのです。
(新田)
楽しく環境問題に取り組めるといえば、どんぐり銀行ではないでしょうか。牧さんに、実際の活動状況を含めて紹介いただきたいと思います。
(牧)
直島の小学生はどんぐり銀行の通帳を持っていて、先日、生徒さんが集めたどんぐりを預かるために、どんぐり銀行の支店を出店しに、直島にやってきました。たくさんのどんぐりを預けていただき有難うございました。
どんぐり銀行の活動というのは、子どもたちの実践力が大きな力です。子どもたちが集めたどんぐりを預金して、預金どんぐりの金額に応じて苗木の払い戻しをするというシステムがどんぐり銀行です。私の活動しているNPOどんぐりネットワークは、どんぐり銀行の業務をサポートしたり、イベントを開催したりして、もっと山に来てもらおう、もっと山での遊びとか楽しみとかを伝えていこうという活動をしています。また、子どもたちだけでなく大人も山で遊びたいという人もいまして、私は主に火曜日に活動しています。
昔、竹は籠やざるを編んだり家の骨組みに使ったり、非常に有用な資源でしたけど、今ではあまり利用しなくなって、切り出すことも減りました。だから竹林が普通の森に侵入してしまって、日の射さない花も咲かない、うっそうとした森になってます。そこではびこった竹を退治して、花の咲く、動物のいる、どんぐりの落ちる、さわやかな森にしようとして活動するのが、私たちのどんぐりアウルスです。どうして森が大切なのかも考えながら、またみんなと楽しく遊びたいという気持ちで活動しています。
(新田)
山で遊ぼう、また遊びながら学習する、そして少しずつ意識が育っていく。これは一種の環境教育ではないでしょうか。遊びで自然に親しみながら意識を高めている活動をしているわけですね。
では、学習という観点から、岡村さんにお話を聞きたいと思います。
(岡村)
私は、山口大学で環境の勉強もしています。
そこで私が意外に思ったことがあります。日本で一番緑が豊かな時代というのは、実は今なんです。江戸時代の浮世絵などを見ると、山ははげ山ばっかりです。集落ができると薪を切ってきて燃やしてしまうからです。今は人が山に入らなくなったし、燃料にもしないから緑が増えたわけです。
私の自己紹介をします。今から25年前に6mのヨットを自分で作って、147日間かけて太平洋を横断しました。きっかけは、中学3年生のときに堀江謙一さんの「太平洋ひとりぼっち」を読んで、自分もやって見たいと思ったことです。そして地図を見ていて、日本から風と海流がアメリカに向かって流れているので、何もしなくてもアメリカに行けるのではないかと疑問に思いました。
その後、23歳のときに実現させました。
私は太平洋横断中に、自然は怖いものと認識しました。よく自然を征服するなんて言いますけど、それはとんでもない間違いで、自然といかに同化して生きていくかだったと思います。そんな状況で、例えば水平線に沈む夕日を見てきれいだなあと思ったり、夜空に輝く星を見てきれいだなあと思ったり、それだけですごく幸せな気持ちになりました。
昨今、よく体験教育と言われています。
私は山口県の宇部市で「森と海の学校」を運営しており、そこで野外活動を取り入れての活動をしています。昭和59年当時のお母さん方には、ぜひとも野外活動をやって欲しいといわれましたが、最近のお母さん方は、野外活動・体験教育をやって欲しいとは言わないのです。キャンプで怪我したらどうするの、夏で暑いのに山に登って何するの?と言われます。今や山登りなどは、7割が女性ですよ。スキューバダイビングも8割が女性ですよ。これから男の子をどうやって逞しく育てるかがこれからの課題だと思います。
環境教育は、自然に対して畏敬の念を持つことが大切です。自然の恐さやさまざまな感動体験をしないと、真の意味での環境教育は伝わらないのではないでしょうか。環境教育というと、目先のごみ処理の問題を考えてしまいますが、本当の環境教育をするには、やっぱり美しい自然で感動体験をさせないと環境教育とは言えないと思います。
(新田)
リサイクルプラントができて、それを見に来るだけでもリサイクルに対して認識が深まるとは思いますが、リサイクルプラントだけだと、本当に工場の島になりかねないと懸念を持っている方もいらっしゃいます。では、何があれば本当の意味での環境の島、魅力ある直島と言われるようになるのでしょうか。
(松崎)
岡崎さんの感動という話は分かりやすいですね。やっぱり私の小さいときには、わくわくした感動がいっぱいありました。だけど今はないね。子どもが忙しすぎます。
もっと子どもが地域で遊べる環境を作ってあげなきゃいけないと思います。次にきれいな海でなければいけない。そして、そこで貝を拾って食べられるように、何か食べ物がなくてはいけないと思います。
環境が産業になるにはどうすればいいかですが、食が大きなテーマです。
昨今、食と農の再生と言われていますが、今の流通は作る人と食べる人が離れすぎています。何処で作っているかわからないから、みんな心配で食の安全性が問われている。今は道の駅などの直販所や有機栽培が伸びています。
直島と聞いたら、ひとつは安藤さんの建築物はぜひ一度見てみたかったです。その次はおいしい魚を食べさせて欲しい。食べるものは人間の重要な基本なので「自分たちが環境に対してこだわった、こういう食べ物があるぞ」というアプローチが分かりやすいと思います。
例えば、漁師のおじさんレストランでいい。古い網を置いてあるような古い倉庫でいい。メニューもいろいろなくていい。魚を切るだけでもいい。
何かきちっとアピールできるものを組み立てて欲しい。まずは食からです。
農水産物の付加価値の作り方は単純です。十分に産業となります。
新鮮で安全な、保証付の物を島に来た人に食べてもらうことからスタートすることが、最終的に自分たちの海を守ることになるのです。
(新田)
環境の島で何が必要かというと、難しいことを考えるよりもまずは食。そして楽しいものでないといけない。ここにできるリサイクルプラントは見学できるようになり、環境教育社会教育に取り組んでいくそうですが、それだけのために船賃を払って見学しに来るかどうかは疑問です。
そこに食がついてたり、環境の勉強ができたり、住民と触れ合えたり、文化にも触れられたりすると、ああ行ってみたいなと思われるのではないでしょうか。このように行ってみたいと思わせるのが必要なのです。食と観光というと実は密接な関係があるのではないでしょうか。
(笠原)
今、直島では「環境の島なおしま」の魅力を高める取り組みとして、ワークショップを始めています。そこで食というテーマを取り上げて、直島に来た人たちに直島の美味しい物を食べてもらおうという動きがあります。このように皆さん既に気づいているようです。
また、今現在でも、既に直島は行って見たいなと思われるところなのです。全国から、また海外からも実際に来てくれています。だけど、せっかく来たのに直島ならではの、持って帰ってもらえるものがありません。こういうところをみんなで知恵を出して考えないといけないのです。食と環境は密接な関係があることについては、なるほどと思いました。美味しいもの、安全な食べ物があるところって、環境に良いところように感じますよね。
提供できる食べ物を探してみて、そして島に来た人に味わってもらって、食べ物から環境にいいものを訴えることが必要ではないでしょうか。私は直島で10年やってきて、直島はいろんな力を持っていると感じています。別に直島の外からわざわざ持ってこなくても、直島の中にあるいろんな力をちょっと見つけて、ちょっと引っ張ってくるだけでいい。そして、ちゃんと人に見てもらったり、自分たちがもう少し使いよくする。こういったちょっとした手を加えることで、直島にはたくさん力があると思っています。
しかし10年もいると、最初は新鮮に感じていたものが、だんだん当たり前の光景になって、何が素晴らしい物なのか何がありふれた物なのか、自分でも慣れてしまって気づかなくなっています。このような場で、直島に来た人と交流することによって気づかせてもらっています。
(松崎)
地域を見直すのには、4つの手順があります。
まず第1に情報です。
商品を売ろうとするとき、私たちはこういう想いで、考え方でこういう環境に住んでます。そういうところで生まれた商品だということを認識してもらうため、情報の中でイメージを作ります。馬路村は、高知県民でさえ知らなかった所です。そこの柚子を売るために、馬路村自体の知名度を上げるためにテレビCMを使いました。
村の名前が売れてくると行きたくなり、そしてしだいに特産品も売れてくる。すなわち村のイメージが大事です。お客さんが自分でイメージできない商品は売れません。直島は、どんなイメージで、どんな情報を外に向かって発信していくか、これが大事です。
第2に価値です。
価値を従来の考え方で決めないことです。実体験ですが、150年前に建てられた民家を利用した飲食店に食べに行ったことがあります。5000円の料理でしたが、出てきた料理はこんにゃく、漬物、山菜、汁、飯、魚の煮付けだけ。料理の食材自体は500円しかないかもしれないが、食材の背景や建物、女将さんとの会話など、全体の雰囲気が5000円なのです。このように、食材だけでなく、背景などすべてのもので総合的に評価できる価値を生み出さなくてはいけません。
例えば、船の上でさばいた魚を見せられたら、それだけで食べる前からうまいと分かりますよね。そういうような店があるとしたら私なら食べますよ。
村おこしをせねばならない、やらなければならない、というように、やらねばならなくなった瞬間に、人は冷めていきます。やらねばならない人が一生懸命やっていると、周りが気持ち悪くなります。だから基本的にはやりたいことをやってください。
第3に融合です。
産業を複合化することです。従来のように1次産業と交流・観光の産業を分離して考えてはいけません。
第4に顧客です。
ファンをどう作るかです。これからは環境意識のない企業や地域はだめです。その作業も楽しく進めていかないといいものはできません。
(新田)
本当に楽しく参加するということが大事ですね。
牧さんにお伺いしますが、植林とか森林伐採とか、参加することによって意識が変わることってありますよね。
(牧)
大人たちは、特に男の人に多いのですが、休日まで力仕事したくないと思われるようです。しかし実際に、竹を切ったりツルが巻きついて見通しの悪い森を間引いたり、草を刈ったりしてみると、それだけで光の射す、風の通る、気持ちがいい空間になり、今日は気持ちのいいことをしたなあという顔に、みんななるのです。疲れることをしているはずなのに、気持ちのいい顔になるのは、森林効果ではないのでしょうか。
(新田)
そういった意味では直島は緑豊かな島ですよね。
牧さんは、実際、直島を自転車で回られたそうですが、どういった印象を持ちましたか?
(牧)
私は個人的に島が好きなんです。女木島も男木島も散歩コースです。直島は大きくて、歩きではちょっと距離があるので自転車で回りました。そこで古い民家の中に現代アートを展示していたものを見て、島でこんな前衛的なことをやっているんだと思ってびっくりしました。何を訴えているか分からないのですが、その分からないところを、ちょっと座って考える時間が、私はいいなあと思いました。1日ゆっくりと楽しめるという意味で島って好きなんです。また、古い物と新しい物がうまく調和されていて、時を忘れて空間を楽しめるのが島の魅力です。
(新田)
このように、島自体に魅力を感じて集まってくる人も多いのではないでしょうか。直島で環境や自然というものに触れ合いつつ、皆さんの意識を高めるような社会教育はできるのでしょうか。
(岡村)
ここが非常に難しいところで、下手すると産廃の島・直島と言われる可能性があります。逆に、環境の島・直島にするには、若い人に帰省本能を持ってもらうような島でなくてはいけません。小さい時に自然に触れた、いい思い出がある、あの島だから戻りたい、あのおじいちゃんやおばあちゃんがいるから戻りたいというような、思い出させる環境作りが必要です。ある意味では、廃棄物のための循環型の施設ができることは、すばらしいことで、これを絶対にうまく利用して、マイナスイメージを持たれないようなコマーシャルをしなければいけない。それは役場の責任でもあるし、企業側の責任もあるでしょうけど、ここをしっかりやってもらいたい。子どもたちに帰りたいと思わせる仕掛けが少子化問題の解消にもつながるのではないか。
実は、私は今日で直島にくるのが8回目です。
直島の最初のイメージは、建築の島、直島です。役場と小学校の建物を見たくて、見学に来たのがきっかけです。このように、今あるものをどう活かしきって帰省本能を働かせるかが大事です。これからはナンバーワンではなくオンリーワンを目指すべきです。
子どもたちに話すことですが、みなさん、亀とウサギが競争したらどちらが勝つでしょうか。亀とウサギがかけっこで競争したら、亀は能力的に絶対に勝てません。でも亀も勝てるんです。プールで競争すれば。
直島が持っているすばらしいものというものがあると思います。そこでオンリーワンを目指して欲しいのです。これだけの自然環境が整っていて、さらに産廃の施設ができるなら、その両方をうまく融合させれば、絶対全国に誇れるようなオンリーワンになれます。このようなことも踏まえて、子どもたちに帰省本能を起こさせるような、将来設計ができれば素晴らしいです。それだけのものがあると思います。
(新田)
今はハード施設を作っていく時代ではありません。環境に対する意識の啓発についても、別に施設を作らなくてもできます。本当の意味での環境の島と言われるためには、キーワードとして「人」があるのではないでしょうか。住民一人ひとりが意識を持ってなんらかの活動している島であるということで、外から勉強に来るような島であったり、住民とふれあうことで何かを得られることがあるような島としたら、人々は直島に来てくれるのではないでしょうか。
(松崎)
馬路村のことですけど、普通田舎では、大きなテレビ局のカメラが来たら子どもは逃げるものなんだけど、馬路村の子はカメラに向かって行くのです。また、嫁さんも馬路村には来るのです。どうしてかと考えていましたら、これは地域のイメージがあるからなのです。
村の子どもたちの野球チームがありますが、人口が少ないので選手が10人くらいしかいません。柚子で売り出す前は、高知県で1勝もしたことがありませんでした。でも柚子の宣伝もかねて、全国に野球チームのことを紹介したら、何を発奮したか初めて勝ったのです。そこで褒美として、野球チームの子どもをテレビコマーシャルに出してあげたのです。そうしたら、他の子がそれをテレビコマーシャルで見て、勝手に僕たちも強いというイメージを持ったようなのです。そんなこともあって高知県で優勝したのです。
一番大事だと思うのは、彼らは「俺は馬路村の子だよ」と堂々と言えることです。昔、私はみんなに言われました。「いつまでもこんな山奥におったらいかんぞ。街にいって偉くならないと。お前ら勉強せえ。」そんなこと言われた子は、絶対に山には残らないし戻っても来ないでしょう。
2つテーマがあると思います。1つは時間。直島時間。島はそんなに急いだらだめです。馬路村も同じで、馬路村で実行したことは日本の農村をテーマに外部とコミニュケーションしてきました。そこにはゆっくりした時間がありますよね。街の人の田舎への憧れは、そういう部分です。さらに、島に対する憧れのキーワードはたくさんあります。例えば空、海、新鮮な魚、太陽の沈む姿など。
もう1つは人です。オンリーワンになるために、直島の名人会を作ってみたらどうか。例えば魚釣りの名人、竹篭を編む名人、家の修繕の名人など、人間を商品にして自分たちの環境と一緒に情報発信ができたら、最終的にはオンリーワンになれるのではないか。
島の人が、島民として自信がつくのは外部環境の影響が大きいのです。島の名前が外部に売れてなければ自信が持てません。島外の人間が、「あんたのところはきれいな島だね」「最近よく頑張っているな」というように、自分たちに対して外部の人達が認めることによって自信が持てるのです。そんなことも一つの手法としてあり得るのではないでしょうか。ぜひ島の人間を、どんな人がいるかを、一回整理しなおしてください。役場を当てにしても無理ですよ。自分たちが動くことです。そして無理せず楽しくやってください。
(新田)
人を育てる。子どもから教育していく。みなさん共通する部分がありますね。
例えば、小学校の授業で環境の時間を取り入れてみてはどうでしょうか。教育面に対して、視察に来るような島でもいいのではないかと思います。
(岡村)
環境教育というと、短絡的に紙すきなどをしてしまいがちだが、もっと原体験、原風景を子どもたちに植え付けるものに取り組むべきではないでしょうか。体験教育は、山登りやキャンプだけではなく、自然の厳しさや恐ろしさを体験させなければいけません。自然に対する崇高な思いを植え付けさせることをさせてあげたいと考えています。
私のやっている沖縄での洋上スクールは、小学校1年生から参加させます。7泊8日の日程で、約150人連れて行くのですが、参加者の最高年齢者は18歳であり、1グループ20人のリーダーは中学3年生です。彼らは下級生の世話や指導をしています。このように全部学生任せです。頑張った、俺にもできるんだ、といういい場面づくりができるフィールドが直島にはあります。そのうえエコタウンのような施設があれば、さらにいい体験ができると思います。
(笠原)
最近一番難しいと思いますのが、環境の島・直島を目指しましょう、と言ったとき反対する人はいなく、ほとんどの人が賛成します。ただ具体的に何をするかと言ったとき、環境という言葉だけでもいろんな要素があります。例えば教育環境、生活環境だって環境です。みんなで具体的に環境の島・直島の定義を作ってみてはどうでしょうか。具体的なアクションプランにいかに落とし込んで行くか、これが大切なことだろうと思います。
ウサギと亀の話のように、自分達が一番になるためにはどうするか?またなれる分野はどこかを探せばいいのです。なにも相手の土俵に乗ることはありません。
よく言われるのが、日本の山村などは、グルグル回るトラックレースの、あたかも周遅れの先頭に立っているようなものです。今、ふと見たときには形式上でも先頭を走っているときがあるのです。
島には、ゆっくりした時間があり、島の暮らしの中には物を考える時間があります。都会で失われたものがたくさん残っています。だから都会からも人達がやって来るのです。ある意味では先頭を走っているのです。これから一生懸命周遅れを取り戻すのか、それとも今あるものや状況を生かして先頭を走り続けるのか。やっぱり足元に注目し、自分たちが持っているいいところ、また直島にとって泳ぐとはどういうことなのかを考えないといけないと思います。
今までは、あるものを壊して新しいものを作ってきた。直島はあるものを生かしたまま無い物を新しく作る。それがたぶん環境に優しい生き方、これからの環境の島・直島の生き方なんではないでしょうか。
(新田)
家プロジェクトはある意味でリサイクルですね。
(笠原)
そのとおりです。しかし、これは一つのやり方の例であって、他にも自然・産業・歴史・文化にしろ、今あるものを活かして新しいものを作っていけばいいと思うのです。
(新田)
自分が勝てる土俵を見つける。いわゆる直島流を探して勝負すればいいのではないでしょうか。
(牧)
島を回って思うのは、海の景色がすごく美しい。海をバックに野外彫刻を見られる場所があるのですが、背景の海と一体化になったアートを見て感動しました。ああ、これが直島だなあと思いました。あのような感性を大切にして欲しい、人の心に感動を与えるようなものをいつまでも残して欲しいです。
(新田)
あるものを活かして、という話が笠原さんからありましたが、その中の素材の一つとして漁業、食ではないでしょうか。魚釣り、新鮮な魚を船の上でさばいて食べさせてくれるようなプログラムがあれば、それが環境教育の一環であれば、非常に面白いのではないでしょうか。
(松崎)
大切なことは、自分達の時間をどう感じるか?田舎にはあるが都会にはないものがある。都会の人には買えないものがある。都会の人に何を伝えられるのでしょうか?それは時間です。直島を感じる時間って何でしょうか?島のゆったりした時間、方言、生活のリズムなど、直島を感じられるものをメッセージにしてみると良い。みんな知っているつもりでいるが、感覚的にわかってないのです。そういう意味では、感覚学校みたいなことがこの島でやれるなら、新しいスタイルとして成立するだろうと考えます。
環境の島・直島と言うなら、せめて家のゴミは24種類に分けてください。生ゴミはみんなそれぞれの家庭でコンポストを設置して処分してください。それが現実なら私たちは、直島が環境の島というだけのことはある、と納得するのです。昨今、環境というのはテーマとして当たり前になっているので、何もしないで環境の島というのは笑われます。
また、感覚学校のことですが、直島名人会を作ってください。その名人を島のスターにして、島の外にアピールするのです。
あとは、直島流体験メニューを組み立ててください。
時間とか、方言、生活の普通のリズム、こういったものを今後メッセージとして島の外にアピールしていってください。
(新田)
私たちが普通と思っているものが、実は普通じゃないのですね。
こういった普通じゃない普通を、直島の人がどう見つけるのかがテーマだと思います。
(岡村)
少子化が全国問題として進んでいる中、何とかして帰省本能を起こさせなければ島の将来はありません。子どもが多いのは島の活性化につながるのです。帰省本能に訴えるのは、お母さん、お父さん、おばあちゃん、おじいちゃんの存在が大きいのです。島の持っている原風景、子どもの頃、誰かに大事にしてもらったなあという思い出が、帰省本能を感じさせるのです。直島もそんな島であって欲しいのです。
(新田)
今日は直島の活性化のためのいろんなヒントが、いろいろな角度から出たのではないかと思います。
循環型社会は、結局人が物を循環をさせることなので、人が一番大切なキーワードではないでしょうか。その人というのは、今ここに来ている人、一人ひとりだと思います。今日の話が、みなさんが何かを考えるきっかけになれたらうれしいと思います。
<ホワイエ>
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