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香川の魅力
目次
温暖で豊かな讃岐の里山で育つコナラやクヌギ、アベマキなどの広葉樹。その木目には、栄養たっぷりの場所で育った証である細かな模様が浮かび上がり、独特の表情を見せる。讃岐の風土がデザインしたともいえる広葉樹「柞(ははそ)」を、讃岐の感性でオンリーワンの家具にデザインする香川県家具商工業協同組合(本文中は組合)。その取り組みを、代表理事である白井正人さんに伺った。
「ははそストーリーズ」の家具製造を手掛ける4社それぞれに、こだわりの素材やデザインがある。日美は、クヌギやコナラ、アベマキなどを使い、シンプルなデザインで木の個性を生かす。
ナラの木特有の虎斑(とらふ)模様。木目が真っすぐに伸びる柾目(まさめ)部分を横断するように現れる帯状の文様で、栄養が行き届いた良い木に出るという。
製材の粉をブラシで落とし、空間を空けて積み上げ、防虫処理を施し、木口に割れ止めを塗布、自然乾燥と人工乾燥で材を仕上げる。外材を入荷して家具を作るのと違い大変な手間がかかる。
「柞(ははそ)」とは、コナラやクヌギなどの別名で、古くはドングリがなる広葉樹をそう呼んだ。母を思わせるその名の通り、燃料用のまきや炭として里山で人々の暮らしを支えてきた。また、枝はシイタケの原木となり、落ち葉は畑の堆肥になり、捨てるところがなかったほどだ。ところが、化石燃料が主流となり、里山は荒廃の一途をたどる。この使われなくなった広葉樹たちを家具にしたいと奮闘するのが組合のメンバーである日美、手づくり家具かわにし、カトミ、光松庵の4社だ。
代表理事で日美の社長でもある白井さんは、こたつの軽量化のため県産スギを枠材にした際、軽くて狂いが少ない香川県産スギの良さに気づく。その後、香川県産ヒノキを独自の技法でヴィンテージテイストに仕上げたテーブルが人気を呼ぶ。そして、「真の国産」と呼べるものづくり企業を目指し、いつか「100%メイド・イン・讃岐」、それも香川県産広葉樹で家具を作ってみたいと思うようになる。しかし、林業関係者の間では広葉樹は「雑木」とされ、家具用材にはならないだろうと思われていたため、家具にするための素材が手に入らない。
そんな時、県の産業技術センターで一枚の板を目にする。同センターでも県産広葉樹の利活用を目的に実験を重ねていたのだ。表面を削ってみると、北米のホワイトオークや北海道産のナラとは一味違う、繊細で力強く個性的な表情が現れた。これを生かして白井さんが試作したテーブルとスツールを目の当たりにした林業関係者は、香川県産広葉樹が家具に使えることに驚き、皆が胸を躍らせた。
組合は小豆島オリーブの間伐材で作るインテリア雑貨などのブランド「LUCCA LOOCA(ルッカルッカ)」で2018年度かがわ県産品コンクール「オリーブ植栽110年特別賞」を受賞している。写真は伐採したオリーブの木で、日美が製作したテーブルセット。
さらに出会いは広がる。香川県が県産広葉樹の活用を図るために開催した講演会に参加し、全国で深刻化している「ナラ枯れ」を防ぐためには、大きくなり過ぎたドングリの木を伐採して、若返らせることが有効な方法だと知った。広葉樹は切り株から新芽が育ち、そこから成長し再び使うことができる。県産広葉樹を家具にという試みは、昔は普通に行われていたこのサイクルの復活を少しでも応援することができる。里山が健やかに守られることで、水源の養成や山崩れの防止にも役立つのだ。
木材は1年以上の乾燥期間を経て、やっと家具の素材になる。広い土地が必要な保管場所、安定した素材の確保、問題山積みだが、里山の未来のためにも、このプロジェクトを続けることに大きな意義を感じた組合の面々。里山の自然を守る循環の物語と、県産広葉樹での家具作りの持続可能な姿を期待して、香川県産広葉樹から生み出す家具を「ははそストーリーズ」と名付けた。この物語は、きっと幸せな暮らしを支え続けることだろう。かつて里山の木々がそうであったように。
日美に設けられたショールームを兼ねたカフェ。実際にメイド・イン・讃岐の家具を体験することができる。
香川県家具商工業協同組合代表理事 白井 正人 1966年香川県庵治町生まれ。1987年当時の高松工業高等専門学校卒業。化学系企業に入社するが、ロックミュージシャンを目指し、東京でバンド活動を行う。1991年日美の配送アルバイトを経て入社。開発部長、統括部長を経て、2008年取締役社長、2009年代表取締役となる。2019年香川県家具商工業協同組合の代表理事となる。 香川県家具商工業協同組合 |
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