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香川の魅力
目次
香川県には、かつて「讃岐民具連」という活動があった。伝承されたものづくりの技を洗練されたデザインで今の暮らしに生かそうという運動だ。その思想にも大きく影響を受けたという槙塚鉄工所。鉄を素材に、建築金物のみならず、キャンプ用品、アートオブジェ、灯台のブローチなど暮らしに輝く大小さまざまなものを生み出している。
アウトドアの達人と鉄作家が生み出す、秀逸なたき火道具の数々。そこにはたき火の哲学がある。
鉄から生まれる物語
鉄と聞くと、堅く武骨なイメージを持つ人も多いだろう。しかし、槙塚鉄工所が生み出す作品は、温かさと時にはユーモアを感じるから不思議だ。その創業は1968年。2001年ごろ、公共事業の削減などで廃業の決断を迫られる中、存続を決断して跡を継いだ槇塚涼、登兄弟。とにかく、どんなことでも引き受けた。一方で、端材を使いアロマスタンドやベンチと思うままにものづくりを楽しんだ。仕事と趣味の両面で、その技は目覚ましく向上した。やがて、建築金物、特にデザイン性の高い階段の制作を手掛けるようになる。
そして、一つのターニングポイントが訪れる。中小企業庁が海外進出を見据えて支援を行う「JAPANブランド育成支援事業」に採択された。「讃岐民具連」でものづくりの中心的役割を担った注文家具で名をはせる桜製作所が音頭を取り、県内の企業を集め建築家やデザイナーとマッチングさせて世界に通用する商品を香川から発信しようというのである。このプロジェクトで、プロダクトデザインの本質を教わり、良品にはストーリーがあることを知る。
「TAKIBISM」の鉄鋺シリーズ。その形から寒川氏の生まれ故郷の山「ハンザン」(写真右)と槙塚鉄工所の近くの山「ヤシマ」と名付けられた。どちらも香川県を代表する山。
2010年、香川県高松市の塩江美術館で、登さんは自らが創作したジャンクアートの展覧会を開く。ドラム缶などを集めて作ったドラムセット、ロボット型のアンプ、鉄で造ったクレーンゲーム機、さながら鉄の遊園地だ。その時に、アウトドアライフアドバイザーの肩書を持つ寒川一氏と出会い、交流が深まる。たき火のオーソリティーである寒川氏のアドバイスもあり、アウトドアツールブランド「TAKIBISM」が誕生。製品の数々は、いざというときの防災グッズとしても優れている。また、フードコーディネーターとのコラボでは、中華鍋やフライパンなど鉄の板を打ち出して作るキッチン用品も加わった。火の中をくぐらせる工程や木づちで形を整える過程が、独特の手作りの良さを伝える。
作りたいものを自由に作るというスタイルは、槙塚鉄工所で働く全ての人々が享受し、そこからまたさまざまな作品が生まれている。アーティストとして岸晃一郎が加わり、パリでのジャパンエキスポに出展。アートなオブジェや鉄を使った音響道具の制作など、活躍の幅は広がり続けている。
使えば使うほど手になじみ、愛着が湧く。そんな、鉄のある暮らしを体験してほしいと願う槙塚鉄工所。時には昔ながらの技で熱い鉄を打ち続け、あるいは自由に鉄をデザインすることで、その実用性や面白さを伝え続けている。その昔から技の数々を磨いてきた香川県に新たに生まれた鉄文化は、たき火の文化と共に、さらに熱く燃え上がろうとしている
素材が持つ空気や物語を大切に制作するという岸さんの作品(鉄のロボット)。新たな物語に誘われる。
登さんは讃岐鉄器の鍛冶職人として、絵心のある鉄作家として、鉄と語り続ける。
工場の2階にあるギャラリー「アルターナ」。オリジナル商品はもちろん、工場のスタッフが制作した作品を購入できる。
槇塚 登 岸 晃一郎 1972年 香川県高松市生まれ。高松工芸高等学校電気科卒業後、映像制作会社を経てフリーに。その後実家の鉄工所に勤務。絵画的な表現を鉄の仕事にすることをテーマに、鉄工所らしくない鉄工所を目指して日々模索中。現在は槙塚鉄工所専務。熱して鉄を打つ鍛造を独学で研究し、「讃岐鉄器」主宰。
1984年 香川県高松市生まれ。高松工芸高等学校電気科から専門学校穴吹デザインカレッジグラフィックデザイン学科に進学。営業職、デザイン職を経て2010年槙塚鉄工所に入社。地元のものづくり集団「匠雲」に参加。2015年第16回 ジャパンエキスポ(パリ)に出展。2016年フランス トゥール市で作品展示。 |
有限会社槙塚鉄工所
香川県高松市木太町2693
TEL 080-6388-5118
https://www.steel-factory.jp/
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