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公開日:2020年12月10日

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漆とは

漆とは、漆の木に傷をつけた時、そこから分泌・浸出する樹液のことをいいます。
植物を含む全ての生物には、個体維持の本能があります。漆の木に傷をつけると、その傷口から乳白色の液体(漆)がにじみ出ますが、樹液を掻き採らなければ、傷口をふさぐように、そのうち漆は黒く変色して固まります。人間の血液と同じように、漆もこのようにして樹液を保護するわけです。

樹液の採取は、樹齢10年以上のものを対象として行われます。10年もので1本の木から1年間で200グラム程度採れます。これは汁椀をわずか数個ほど作る量なのです。
商品として精製された日本漆は、非常に貴重で高価なものです。漆掻き職人は、「漆の一滴は血の一滴」とよんで大切に扱います。日本の農山村から漆の木がほとんど消失した現在、日本で使用される漆の大半は中国産となってしまいました。

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漆の木

漆の木は、日本・朝鮮半島・中国などの東アジア、さらにベトナム・タイ・ミャンマーなどの東南アジアにわたって広く分布しています。
日本では、九州から北海道まで広範囲に成育する落葉樹です。大きいものは、高さ10m直径30~40cmにも達します。
6月中旬に黄緑色の小さな花を咲かせます。雌花と雄花があり、風や蜂によって受粉し結実します。蜂の巣が、樹木の枝からぶら下がることができるのも、蜂は漆の接着力の強さを知っていたのかもしれません。

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漆の精製

漆の木から採取したままの漆は、木屑やごみなどが入っているうえ、質が均一でなく、水分が多すぎます。攪拌機(かくはんき)でかきまぜながら、熱を加えて水分を少なくします。それが漆の精製です。精製することによって、漆の用途は広がります。
木屑やごみをろ過したものを生漆(きうるし)と呼びます。

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漆掻き

成長した漆の木の幹に傷をつけ、にじみ出てきた樹液を掻き採る作業を繰り返します。この作業を漆掻きといいます。この作業は、6月中旬頃から10月下旬にかけて、天候と木の状況を見ながら行われます。

中世では、漆は米・絹などと同様、年貢として納めなければならないものであり、漆の木の生えている場所と本数までも役所で調査・記録されていました。採取した漆から木屑等を取り除いた生漆を攪拌して成分を均質にする「なやし」、加熱して水分を蒸発させる「くろめ」の作業を行うと、半透明の飴色で粘度のある精製漆になります。精製漆にベンガラ等の赤色顔料を加えると朱漆、鉄粉や水酸化鉄を加えると黒漆になり、朱漆と黒漆を使って多くの椀や鉢などが作られます。

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漆が乾燥するしくみ(雨天の日ほど早く乾く)

漆の主成分はウルシオールという樹脂分で、フェノール系の物質。上等な漆ほどウルシオール成分の割合は高くなります。温度や湿度が高くなると、ウルシオール中に含まれている酵素(ラッカーゼという)が活性化し、空気中の水分から酸素を取り込み、ウルシオールとの酸化反応によって、科学的には網目構造の巨大な高分子を構成します。外見上では液体から固体へと変化します。この課程を「漆が乾く」といいます。漆の乾燥とは、水分が蒸発して乾くという現象でなく、酵素が高分子を作るということです。

漆が乾くためには、酵素を活性化させるために必要な温度(25度程度)と湿度(75%程度)が必要です。そのため、梅雨時の高温多湿の季節ほど酸化反応が促進するので、漆は早く乾燥します。雨天の日ほど漆は早く乾燥するのです。漆風呂(うるしぶろ)は檜や杉の板を貼って防塵、保温、保湿の効果を高める密閉構造になっており、漆の乾燥に最適な温度と湿度が確保されるようになっています。

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漆は水分が蒸発して乾燥するのではなく、漆の成分そのものが内部で変化することで乾燥する特異なもの

最近、室内塗料として化学塗料が使用され、溶剤が蒸発することでシックハウス症候群が生じるといわれています。漆は科学塗料と異なり、「自らが乾燥」し、完全に乾燥してしまうとかぶれることはありません。漆は天然塗料として、環境や人の健康に優しい塗料として注目されています。

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漆は塗料や接着剤、防水剤として利用したのが始まりで、塗膜が堅牢で熱や湿度に強く、酸やアルカリにも変化しない

また、漆は、独特の質感や光沢を備えており、特有の美しさが日本人の美意識に合致し、多くの漆器が生み出されてきました。漆器は、素地を作る素地工程、素地を整える下地工程、下地面に漆を塗り重ねる塗り工程、漆面に文様をつける加飾工程という長く手間をかけて工程を経て完成します。

<<漆芸の歴史2を見るGo to "English Kagawa Lacquer Ware">>

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