ここから本文です。
日本の農業は、「安心安全な食べものをつくる」という重要な役割だけでなく、古くから自然環境を保全し、さらには伝統芸能などの文化も育んできました。日々の農業活動を通じて国土・自然環境の保全などの様々な役割を果たしており、これらを多面的(ためんてき)機能(きのう)と呼んでいます。
たとえば、水田は洪水や土砂崩れを防止し、地下水も蓄えています。そして、生きものを育み、気温も調整します。また、美しい農村の風景は、わたしたちの心を和ませてくれ、教育や休養の場として大きな役割を果たしています。
機能の種類 | 評価額 | 評価方法 |
---|---|---|
洪水防止機能 | 3兆4,988億円 | 治水ダムを代替財として評価 |
土砂崩壊防止機能 | 4,782億円 | 土砂崩壊の被害防止額によって評価 |
土壌浸食防止機能 | 3,318億円 | 砂防ダムを代替財として評価 |
河川流状安定機能 | 1兆4,633億円 | 利水ダムを代替財として評価 |
地下水涵養機能 | 537億円 | 地下水と上水道との利用上の差額によって評価 |
※2001日本学術会議答申をもとに作成
”あぜ”により雨水を一時的に貯えることができます。このため、雨水の急激な流出が防止され、下流での洪水や周辺での浸水が防止・軽減されるという機能があります。また、畑にも、雨水を一時的に貯えることで、洪水を防止する機能があります。近年の耕作放棄地の増加や宅地化の進行によりこの機能は減少してきています。
傾斜地に切り開かれた田や畑は、田に蓄えられた水や畑に植えられた作物の葉や茎が雨風の影響をやわらげることによって、土砂の流失や飛散を抑え、土壌の流出や地すべりの発生を防いでいます。
また、その生産活動を通じた日々の手入れによって斜面の崩壊を未然に防止するとともに、水田は雨による急激な地下水の上昇をコントロールする働きがあります。
水田に貯えられた水は徐々に浸透して地下水となるほか、直接河川を流れるよりも長い時間をかけて下流の河川に戻され、川の流れの安定に役立ちます。
このように、水田などには、私たちが生活するのに必要な水源である地下水を豊かにする機能や川の流れを安定させる機能もあります。
また、収穫後の水田や畑も雨水が地下への浸透することによって、地下水のかん養に役立っています。
農村で栽培される作物は光合成や蒸発散によって光や熱を吸収し、気温を下げる働きがあります。特に水田は水面からの蒸発により気温上昇を緩和します。また、田や畑などの緑地では、炭酸ガスを吸収し、酸素を発生させるだけでなく、大気汚染物質である亜硫酸ガスや二酸化炭素なども吸収し、無害なものに変える働きがあります。
生ゴミや家畜の排せつ物などの有機性廃棄物は、たい肥化されて田畑に還元され、資源として有効に利用されます。水田や畑には、バクテリアなどの微生物がたくさんすんでいて、農地の耕作を通じて、有機物を分解して植物が吸収できるようにしており、循環型社会のシステムづくりが可能になります。
「三尺下れば水清し」といわれるように、有機物は、水路を流下するうちに食物連鎖の一環としてバクテリアなどの微生物の働きにより分解され汚濁水を浄化しています。自然の水循環サイクルは、農村に降った雨が海まで流れるまでの間、動植物を育てながら水を浄化させており、これらの微生物のおかげで、有機物のみならず、農薬や合成化学物質なども分解されます。
真っ直ぐなあぜ道や、曲がったあぜ道、大きい田んぼ、小さい田んぼ、四季による色彩の変化もとてもきれいなものです。こうした景色・景観は長い時間をかけて人が農業を通じて自然と対話するなかで作られてきたものです。
農村で農業が営まれることで、これらの景観が維持・保全されていますが、これらの景観は、その地域の住民や訪れる人たちの美的感覚や心に訴えかけ、人の心をなごませる働きをしています。
水田や畑には様々な生物が生息しています。水田や畑では、植物や昆虫、動物などの豊かな生態系をもつ二次的自然が形成・維持され、多様な野生動植物の保護にも大きな役割を果たしています。
きれいな水、澄んだ空気、美しい緑、都市では見られない景観や自然、環境、そして潤いや安らぎを求めて、農村に多くの人々が訪れています。都市に住む人たちが農家民宿に泊まって農業を体験したり、農村の文化・自然にふれたりと、農村には都市生活の疲れをいやし、心と体をリフレッシュさせる効果があります。
また、農村の自然や生きものとのふれあいを通じた、体験学習や自然教育の場となっています。
農村では、長い歴史を通じて農業が営まれることによって守られてきた、自然の恵みに感謝し、あるいは災害を避ける願いを込めて行われる芸能・祭り、様々な農業上の技術、地域独自の様々な知恵などの文化が守り伝えられています。
このページに関するお問い合わせ