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少し前になりますが、研究の一環で資料調査に来られる研究者のため、閲覧予定資料を準備していた時のことです。報告書作成時に別の2点の石器として図化していたものが1点の石器に復元できることが確認でき、その直後、同様の資料がもう1点見つかりました。
これらは、旧石器時代の終わり頃(約13,000年前)、細石刃という小さな石器を作り出す準備を行う際に生じたもので、日本の北東部で用いられた「湧別技法」と呼ばれる石器製作技術に関連する資料です。現在、県内の発掘調査で確認できている資料は、これらが出土した羽佐島遺跡(坂出市与島町羽佐島)のみで確認できています。
この遺跡は、昭和53・54年に発掘調査が、昭和56~58年に整理作業が行われ、約25万点に及ぶ旧石器時代を主とする遺物について報告書が作成されましたが、この膨大な遺物を世に出すため、主要な資料の図化に専念したため、現在同様の遺跡を報告する際に多く採られる分析方法である石器の接合作業(バラバラに出土した石器を割られる前の原石に近い形に復元する作業。この資料を元に、映像の逆再生のように石器製作の工程を復元する。)に多くの時間を費やすことができませんでした。
なお、この遺跡では約20,000~13,000年前の資料が、島の尾根筋にまんべんなく広がっていましたが、今回のような特徴的な遺物や、サヌカイト以外の石材の分布から、ある程度のまとまりがあることが分かっていました。
今後、今回確認できた資料と報告書の記載を元に、関連する資料を抽出し分析することで、遺跡の再評価につなげていきたいと考えています。(5月27日)
羽佐島遺跡の接合した資料2点(左右とも4面展開) |
埋蔵文化財センターでは、月に一度、各職員間で情報共有を図るため、職員会議を行っています。特に各発掘現場やセンターでの作業成果や課題についての報告や、それを元にした意見交換などが行われます。今回はその一コマをご紹介します。
ある職員が整理作業の過程で、土器の底についている模様のようなものに着目しました。鎌倉時代以降の素焼きの皿などの底には並行する筋が見えることがあります。これは「板目状圧痕」と呼ばれ、形作られた生乾きの土器が板の上に置かれた際に、板の木目が付いたものと解釈されてきました。この職員は、板の木目としては形状が異なるのではないかと考え、土器を静止したロクロからヘラなどで切り離した痕跡などの可能性について検討を行いました。
実際に当時と同じ手法で土器を作り、ロクロから切り離す作業や切り離し後に板の上に置いた場合に土器の裏側に付く痕跡を確認しました。また、土器を置くための台になる割り材も製作しました。板は現代のようにノコギリで製材するのではなく、クサビなどを用いて丸太を縦割りにしてやや薄い板状の材を用意し、必要に応じてヤリガンナなどで表面を削り平滑にしていたようです。土器を置く台としてはおそらく平滑に仕上げたものではなく、粗割したままのものが使われたと考えられます。実際、実験で作った土器の裏側に付いた板の痕跡と遺跡出土の土器の裏面の圧痕はとてもよく似ていることが確認できました。また、静止したロクロからヘラで切り離すときれいに並行した筋が付きにくく、土器もひずみやすいことも確認できました。
実験は仮説を実証するための大事な手法です。考古学でもその手法が有効であることを改めて認識することができ、有意義な会議となりました。(5月8日)
会議風景 | 実験結果を説明する職員 |
用意した割り材 | 実験で板目状圧痕のついた土器 |
実際に出土した板目状圧痕のついた土器 |
香川県埋蔵文化財センターでは、丸亀市飯山町の沖南遺跡の整理作業を4月から行っています。沖南遺跡は令和元年度から3年度にかけて発掘調査を行い、中世の屋敷地や周囲の条里地割と合致する坪界溝などが確認されました。今年度は、令和2年度と3年度の発掘調査で出土した資料の整理作業を行っています。
現在、出土した土器の接合作業を行っています(写真1)。発掘調査で土器が完全な形で見つかることはほとんどなく、基本的には破片の状態で見つかります。しかし、なかには特徴がよく似た破片どうしをくっ付けることで、土器の形を復元できるものがあります。この破片を繋ぎ合わせていく作業を接合作業と呼んでいます。
写真2は接合する前の土器の破片です。これでは今ひとつ形や大きさが分かりません。しかし、これらの破片を組み合わせていくと、写真3のようになります。最初は破片だった土器を接合すると、13世紀前半から半ばの口径11.0cm、器高3.0cmの土師質土器の杯(食器)であることが分かりました。このように、接合作業をする前と後では得られる情報が大きく異なります。
ただし、接合をしても見つからない破片もあり、なかにはバランスが悪く、接合した土器がまた壊れてしまうものもあります。その際には石膏を流し込んで土器を補強します(写真4・5)。こうすると、接合した土器が壊れることが少なくなります。接合作業は単に得られる情報を多くするだけでなく、遺物の保管状況を良くすることにも繋がります。
接合作業は膨大な破片から土器を復元していく気の遠くなるような作業ですが、遺跡や遺構の特徴や年代を知るうえで必要な情報を引き出すことができ、遺物の保管や管理、展示や出前授業などでの活用に繋がる非常に重要な作業といえます。(4月16日)
写真1 土器の接合作業 |
写真2 土器の破片 |
写真3 接合した土器 | |
写真4 土器に石こうを流し込んでいます | |
写真5 石こうを入れた弥生時代後期の土器 |
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