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教育は、人間が人間に働きかけることによって成り立つ全人格的な行いであり、「教育は人なり」といわれるように、学校教育の直接の担い手である教員の資質の向上を図り力量を高めていくことは極めて重要な課題である。
中でも、指導力や適格性に問題のある教員については、教員の活動が子どもの心身の発達や人格形成に大きな影響を及ぼすものであることから、早急に対策を講じていくことが求められている。
平成10年9月の中央教育審議会答申では、「校長・教頭への適材の確保と教職員の資質向上」についての具体的改善方策の中で、「適格性を欠く教員等への対応」として、「子どもとの信頼関係を築くことができないなど教員としての適格性を欠く者や精神上の疾患等により教壇に立つことがふさわしくない者が子どもの指導に当たることのないよう適切な人事上の措置をとるとともに、他の教員に過重な負担がかかることのないよう非常勤講師を任用するなど学校に対する支援措置を講じるよう努めること。
また、教員としての適格性を欠く者については、教育委員会において、継続的に観察、指導、研修を行う体制を整えるとともに、必要に応じて『地方公務員法』第28条に定める分限制度の的確な運用に努めること。」と提言している。
また、平成12年12月の教育改革国民会議報告では、教育を変える17の提案の中で「効果的な授業や学級運営ができないという評価が繰り返しあっても改善されないと判断された教師については、他職種への配置換えを命ずることを可能にする途を拡げ、最終的には免職などの措置を講じる。」ことを提言している。
文部科学省(文部省)では、平成10年の中央教育審議会答申を受け、平成12年度に「新しい教員の人事管理の在り方に関する調査研究」事業として、14府県2指定都市に委嘱して「指導力不足教員に関する人事管理」について調査研究を進めることとした。
平成13年1月には「21世紀教育新生プラン」を策定し、教育改革国民会議報告の提言を踏まえ今後の教育改革の取組みの全体像を提示するとともに、平成13年度から全ての都道府県及び指定都市に委嘱して「指導力不足教員に関する人事管理」の調査研究を行うこととした。
また、同年7月、教育改革関連六法の一つとして「地方教育行政の組織及び運営に関する法律の一部を改正する法律」が成立し、児童生徒に対する指導が不適切な教員を教職以外の職に転任させる措置を講じることができるようになった。
本県の現況を見ると、多くの教員が子どもの健やかな成長を願って、日々意欲的・献身的に職務に取り組んでいるところであるが、一部には教育者としての使命感や子どもに対する教育的愛情に欠けたり、専門的知識や実践的指導力が不足するなどの教員がいることも事実である。
これまで、こうした教員に対しては、各学校において必要に応じて授業時間数の軽減や校務分掌上の配慮をしたり、場合によっては学級担任を外すなどの措置を講じながら、校長や教頭が中心となって指導してきたところである。
しかしながら、各学校における個別対応では十分な改善が見られない場合が多く、また、管理職や周囲の教員がそのことに多くの時間や労力を費やし、学校本来の教育活動を停滞させる原因ともなっている。
このため本県では、平成12年度から指導力不足等教員に関する人事管理の在り方について調査研究を開始するとともに、できるものから速やかに実施するということで、平成13年度から研修を受けることにより指導力等の向上が期待できる教員を対象に、本人の意向を確認した上で、県教育センターで研修を実施しているところであるが、今後更に、児童生徒を適切に指導できない教員に対し、組織的・体系的に対応していくためのシステムを整備する必要がある。
本委員会は「指導力不足等教員に対する人事管理に関すること」について検討するよう依頼を受けたが、一口に「指導力不足等教員」といっても、その置かれている環境等から一時的に指導力に問題が生じているにすぎない者、教員としての資質に欠ける者、問題の原因が病気に起因する者など、問題の態様や程度、原因は様々である。
そこで、本委員会では、検討を進めるに当たって、まず「指導力不足等教員」をどう定義するかについて検討することとした。
教員に求められる資質能力については、平成9年7月に出された教育職員養成審議会の第1次答申の中で、「いつの時代も教員に求められる資質能力」として、昭和62年の同審議会答申に掲げられた「教育者としての使命感」、「人間の成長・発達についての深い理解」、「幼児・児童・生徒に対する教育的愛情」、「教科等に関する専門的知識」、「広く豊かな教養」、「これらを基盤とした実践的指導力」が掲げられている。また、「これからの時代の教員には、変化の激しい時代にあって、子どもたちに「生きる力」を育む教育を授けることが期待される。」とし、「今後特に教員に求められる具体的資質能力」として、「地球的視野に立って行動するための資質能力」や「変化の時代を生きる社会人に求められる資質能力」などについて、具体的な例が示されている。
こうしたことも参考にしつつ、本委員会では学校現場における具体的な問題事例を把握し、それを基に実態に即した検討を行うため、「職務に要求されている水準に達していないなど、校長が、今後何らかの指導改善が必要であると判断する教員」について、その問題の態様や程度等を調査することとした。
調査の結果、問題の態様としては、専門的知識・技能に欠ける、児童生徒の実態に合った指導ができない、学級経営ができないなど指導力に係わる問題と、責任感や意欲に欠ける、同僚との協調性がない、勤務時間等が守れないなど適格性に係わる問題があり、問題の程度についても、日常の指導を通じて改善が期待できる軽微なものから、特別な措置を講じて改善を図る必要がある重大なものまで様々であることが分かった。また、多くの場合、二つの問題は相関関係にあることや、問題の原因が精神疾患等の病気に起因する場合も少なからずあることが分かった。
本委員会では、このような調査結果を踏まえるとともに、対応策を検討するにあたって最も重要なことは、児童生徒に対して適切な指導ができるかどうかであるという考えに立ち、「指導力不足等教員」を「指導力や適格性に問題があり、児童生徒を適切に指導できないため、人事上の措置を要する教員」と定義することとした。
他県の事例を見ると、問題の原因が疾病等にある場合は指導力不足等教員から除いているケースも見受けられるが、指導を受ける児童生徒の立場に立ち、そのような教員も含めて考えるのが適当である。
また、指導力不足等教員に該当するほどではないが、指導力や適格性に問題があり指導改善を要する教員についても、児童生徒の指導に関し支援を要する教員として、何らかの対応策を講じていく必要があるものと考える。
価値観の多様化に伴う子どもの変化、家庭や地域の教育力の低下など、学校や教員を取り巻く環境が大きく変化する中で、指導力不足等の状況に陥る原因には様々なものが考えられる。このため、指導力不足等教員などの認定にあたっては、多角的な観点から検討する必要がある。
教員の資質能力は、日々の研究修養や教育実践の中で高められていくものであり、本人自身の努力が必要なことは言うまでもないが、管理職等の指導状況も考慮しなければならない。同時に、指導力や適格性に問題のある教員から指導を受けなければならない子どもたちのことを考えて対応していくことが重要である。このようなことから、指導力不足等教員などの認定については、当該教員の問題の程度、管理職等の指導状況、本人の対応状況、児童生徒、保護者、同僚教員など関係者の反応の4つの観点から判断するのが適当であると考える。
また、問題の程度等も様々であるため、次表「指導力不足等教員などの認定基準」のとおり3ランクに区分し、区分I及び区分Ⅱに該当する教員を「指導力不足等教員」、区分IIIに該当する教員を「支援を要する教員」として、それぞれの区分に応じた対応策を講じていくものとする。
区分 | 観点 | 基準 | |
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指導力不足等教員 | Ⅰ | 問題の程度 |
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管理職等の指導状況 |
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本人の対応状況 |
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関係者の反応 |
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Ⅱ | 問題の程度 |
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管理職等の指導状況 |
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本人の対応状況 |
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関係者の反応 |
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支援を要する教員 | Ⅲ | 問題の程度 |
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管理職等の指導状況 |
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本人の対応状況 |
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関係者の反応 |
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多くの教員は、教育に対する情熱を持って教職に就き、様々な困難に立ち向かいながら日々の教育実践に励んでいるところである。
しかしながら、教育という営みは、打ち込めば打ち込むほど喜びも大きい反面、壁にぶつかったり挫折を経験したりする中で意欲や自信を失い、児童生徒に対して適切な指導ができない状態に陥る場合もある。
このため、校長は、常に教員一人一人の状況を把握し、そうした教員の早期発見に努め、できるだけ早期に必要な支援や指導・助言を行わなければならない。
また、教員の資質能力は、教員自身の研鑚はもとより、職場における日々の教育実践の中で同僚と高め合ったり、管理職の指導などによって高められていくものであるが、指導力や適格性に問題を有しながら、そうしたことによっても指導力等の向上が見られない教員については、学校内外において、特別な工夫や配慮の下で研修を行う必要がある。
特に、指導力不足等教員については、児童生徒への影響を考え、一定期間職場から離して研修に専念させ、問題の内容や程度など個々の教員の実態に応じた研修を行うことによって、指導力等の回復・向上を図る研修システムを整備する必要がある。
これは、指導力不足等教員を学校現場から離せばいいという排除の論理に立つものではなく、早期に対応策を講じることによって指導力等の回復・向上を図り、早く学校現場に復帰できるようにするという視点に立って、それを支援するシステムとして整備するものである。
しかし、学校等におけるそれまでの指導等から見て、研修を行っても効果が期待できない教員や、研修を受けたにも拘わらず改善が見られなかった教員については、何よりもそうした教員に指導を受けなければならない児童生徒のことを第一に考えて、教員以外の職への転任や分限免職処分など、厳正な態度で対応する必要があろう。
なお、児童生徒を適切に指導できない原因が精神疾患等の病気に起因する場合は、病気休暇制度や休職制度によって対応するものとする。
認定基準に該当すると決定された教員については、個々の教員の実態に即した研修プログラムを作成し、きめ細かな研修を行わなければならない。
具体的な研修の方法としては、認定基準の区分Ⅰ及び区分Ⅱに該当する者については、一定期間職場を離れて研修に専念する校外研修が、区分Ⅲに該当する者については、所属校において一定の配慮の下に職務に従事しながら行う校内研修が適当であると考えられる。
校外研修は、県教育委員会、市町教育委員会、学校が連携し、一定期間研修に専念させる形で行う。
具体的には、区分Ⅰに該当する者については県教育センターにおいて1年間の長期研修、区分Ⅱに該当する者については県教育センター又は市町の研修施設で6ヶ月間程度の短期研修を行うこととする。
また、研修の期間は、原則として最長2年間とするのが適当である。
研修の内容については、それぞれの教員の有する課題に応じたものにする必要があるが、基本的なものを例示すると、資質の向上を図るための基礎的な研修や指導力の向上を目指した実践的な研修、職務に対する自覚を高めたり視野を広げることを目的とした体験的な研修などが考えられる。。
また、この研修システムは、学校現場への復帰を支援することを目的とするものであることから、研修終了後、学校現場に円滑に復帰できるよう、置籍校等学校現場における研修も行うべきである。
更に、状況によっては、教育委員会の事務局・教育機関や、民間施設などにおける研修も有効である
また、教員の悩みや相談に応じるため、カウンセリングを組み入れることについても検討すべきであろう。
教育センター等の研修場所においては、研修生の受講態度や変容の状況、研修の成果等について十分観察・記録し、個々の状況に応じた指導を行うとともに、学校現場への復帰が可能かどうかを判断できるだけの資料を整えておく必要がある。
また、校外研修を行う場合には、代替教員を派遣し、学校の教育活動に支障がでないよう配慮する必要がある。
校内研修は、所属校において、校長が研修責任者となり、学習指導や生徒指導等に関する指導者を定めるなど校内でサポート体制を組み、必要に応じて授業時間数の軽減や校務分掌上の配慮等をしながら行うものとする。
校長は、当該教員の態様に応じた効果的な研修を行うため、研修プログラムの計画・立案に当たっては、県教育センターと相談したり、市町教育委員会、県教育委員会と連携を取りながら作成すべきである。
また、定期的に市町教育委員会、県教育委員会に研修の状況や成果等について報告するとともに、改善が見られたときは、研修の終了について市町教育委員会、県教育委員会と協議するものとする。
市町教育委員会、県教育委員会は、学校と十分連携を取りながら、適宜指導主事等を派遣して指導・助言を行うなど、研修の成果が上がるよう支援に努めなければならない。
区分 | 研修の種類 | 実施主体 | 研修期間 | 主たる研修場所 | 研修内容 | 備考 |
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Ⅰ | 校外研修:長期 | 県教育委員会 | 1年間 | 県教育センター |
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Ⅱ | 校外研修:短期 | 県教育委員会又は市町教育委員会 | 6ヶ月間程度 | 県教育センター又は市町研修施設 | ||
Ⅲ | 校内研修 | 所属校 | (ケースに応じて) | 所属校 | 教育センターの研修計画等を参考に個々の課題に応じて実施 |
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前述したように、中央教育審議会答申(平成10年9月)や教育改革国民会議報告(平成12年12月)を受けて、平成13年7月に地方教育行政の組織及び運営に関する法律が一部改正された。
その内容は、児童生徒に対する指導が不適切であり、研修等必要な措置が講じられたとしてもなお児童生徒を適切に指導することができないと認められる場合には、県費負担教職員を免職し、引き続いて教員以外の職に採用することができるというものであり、平成14年1月から施行されている。
教員としての適格性に欠けたり、勤務実績が良くない者については、分限制度により対応することとなっているが、分限免職等に至らない場合であっても、児童生徒への指導が不適切な教員の存在は、児童生徒、保護者、地域社会の学校や教員に対する信頼を大きく揺るがすものであり、そうした教員については、本制度によって適切な対応を講じていく必要がある。
なお、この措置は、新しく就くこととなる職に必要な適性、知識、能力を有している場合に講じることができる措置であることから、運用に当たってはその点に十分留意し、慎重に検討する必要がある。
地方公務員法では、勤務実績が良くない場合やその職に必要な適格性を欠く場合には免職することができることとなっている。
教員の職務は児童生徒の人格形成に関わり、重大な影響を与えるものであることから、児童生徒を適切に指導できない教員に対しては、資質能力の回復・向上のための手だてを尽くす必要があるが、それでも改善が見られない場合には毅然とした態度で臨む必要がある。
具体的には、学校等におけるこれまでの指導等から見て、研修を行っても効果が期待できないと認められる場合や、研修を受けたにも拘わらず改善が見られなかった場合には、県民に信頼される学校教育を推進するという観点から厳正に対処するべきである。
分限免職に至るほどではないが、児童生徒を適切に指導することができないと認められる教員で、他職種への転任もできない者については、退職の勧奨により適切な対応を図ることも考慮すべきであろう。
児童生徒に対する指導を適切に行うことができない原因が精神疾患等の病気に起因する場合も往々にして見られるが、そのような場合は、病気休暇制度や休職制度によって対応するものとする。
校長は、日常の勤務状況を十分観察し、その言動等から精神疾患等の病気が疑われ、受診の必要があると思われるにも拘わらず、医療機関において受診しようとしない教員に対し、人権に十分配慮するとともに、状況によっては家族や専門医と相談するなどした上で、早期受診を指導するものとする。
しかし、実際にはこうした受診指導に従わず、校長が対応に苦慮するケースもしばしば見られるところである。
このようなことから、校長の継続的な受診指導にも従わない教員に対しては、服務監督権者である市町教育委員会、県教育委員会が直接受診命令を行う必要があると考える。
指導力や適格性に問題のある教員に適切に対応していくためには、管理職や同僚教員が早期に発見し、早期に対応することが重要である。このため、校長等は、教員一人一人の勤務状況や健康状態について日頃から注意を払い、問題の状況に応じた指導・助言を行わなければならない。
しかし、こうした指導等によっても十分に改善が見られない教員については、組織的・体系的に対応するため、校長は、「指導力不足等教員などの観点項目」を参考に、問題の具体的状況や指導の内容、指導後の状況等を詳細に記録し、今後の指導に生かしていくとともに、市町教育委員会(県立学校にあっては県教育委員会)に報告するものとする。
その際、校長は、教頭や同僚教員等はもとより、指導を受ける児童生徒や保護者、地域住民の声なども十分に踏まえた上で実態把握を行わなければならない。
市町教育委員会は、学校から指導力や適格性に問題があると思われる教員について報告があったときは、校長から事情を聴いたり、実際に授業を観察するなどして実態の確認を行うほか、必要に応じて直接本人や関係者から事情を聴くことによって正確な実態の把握に努めなければならない。
県教育委員会は、市町教育委員会の申請(県立学校にあっては、校長の報告)を受け、内容を十分精査した上で当該教員の問題の程度等や原因に応じた対応策の案を作成する。
また、本人が課題や問題点を自覚し、その改善に向けて前向きに努力することが必要であるため、なぜ対応策が必要か、どういう対応策を講じようとしているかについて市町教育委員会を通じて校長から本人に説明する。
その際、研修は指導力等の回復・向上を支援するために行うものであること、そのためには本人の自発的な取組みが重要であること、校長としても指導力等の回復・向上を期待していることなどについても話しておくべきであろう。
更に対応策について本人に不服がある場合は、不服の申立てができるようにし、そのことも併せて本人に説明しておく必要がある。
指導力不足等教員などの認定や対応策の決定は県教育委員会が行うが、客観性や公正性を確保する観点から、後述する諮問機関を設け、その意見を聴いた上で行うようにすべきである。
校外研修を受けた者については、研修終了時に学校現場への復帰が可能かどうかを判定するものとする。復帰判定は、指導力不足等教員などの認定や対応策の決定と同様、客観性や公正性を確保するため、諮問機関の意見を聴いた上で行うものとする。
判定の結果、研修の効果があり職場復帰が可能と認められる場合は職場に復帰することとする。その場合、校長は当該教員が円滑に職場復帰できるよう、周囲の教員や保護者などに対し、本人が真摯に研修に取り組み改善が図られたことを十分説明するなど、当該教員への理解と協力が得られるような環境整備に努めなければならない。
引き続き研修が必要と認められる場合は再研修を行うこととする。
ただし、再研修を行っても改善が期待できない場合は再研修を行わない場合もある。
再研修を行っても改善が期待できない場合や、再研修によっても改善が見られなかった場合は、他職種への転任や退職の勧奨、分限免職の処分を行うものとする。
ケース | 対応策 |
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研修の効果があり、学校現場への復帰が可能と認められる場合 | 学校現場に復帰 |
引き続き研修が必要と認められる場合
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再研修 |
研修の効果がなく、今後研修を行っても改善が期待できない場合で、他の職についての能力を有すると認められる場合 | 他職種への転任(分限免職に該当する場合を除く。) |
研修の効果がなく、今後研修を行っても改善が期期待できないと認められる場合 | 退職の勧奨又は分限免職 |
なお、児童生徒に対する指導を適切に行うことができない原因が、精神疾患等の病気に起因する場合は、病気休暇制度や休職制度により対応することとなるが、病気休暇や休職を度々繰り返し、児童生徒の指導や学校運営に支障をきたしている現実も見受けられる。
このため、そうした事態を防止するためのシステムについても検討すべきである。
指導力不足等教員などの認定や対応策の決定、研修終了後の学校現場への復帰の可否の判定は、当該教員に大きな影響を与えるものであることから、当該教員に不服があるときは県教育委員会に対して不服の申立てができるような仕組みを整えておく必要がある。
指導力不足等教員などの認定等は、任命権者である県教育委員会の権限と責任において行うべきものであるが、認定等の客観性や公正性を確保するためには、学識経験者、医療関係者、法律関係者等の第三者で構成する諮問機関を設け、その意見を聴いた上で行うのが望ましい。
このため、県教育委員会は、指導力不足等教員などの認定、対応策の決定、研修終了後の学校現場への復帰判定を行おうとするときは、予め、諮問機関に諮り、その答申を尊重して対応するものとする。
諮問する際、本人から不服の申立てがある場合は、その内容を諮問機関に報告するものとする。また、認定等の後に不服の申立てがあった場合も同様とする。
その場合、諮問機関は、不服の申立てに合理的な理由があり、再審査が必要であると認めるときは、再審査するものとする。
また、諮問機関は、審査のため必要があると認めるときは、当該教員や関係者から直接意見を聴くことができるようにしておくべきであろう。
指導力不足等教員への対応システムは、直接児童生徒の指導に当たる教員を対象としたものであり、管理職は対象としていない。
しかし、学校において教員を支援し指導する立場にある管理職、とりわけ校長の責任は重大である。
このため、校長・教頭は自ら研修に励み、管理職のリーダーシップの下に部下の育成・指導や教育活動の活性化を図ることができるよう、資質能力の向上に努めなければならない。
教員の心身の健康管理は指導力不足等教員を出さないためにも大事なことであるが、心身の健康管理のためには、本人はもとより、管理職や同僚教員が早く心身の変調に気づき、早期に適切な処置をすることが重要である。
このため、校長は、率先して職場の良好な人間関係づくりに努め、お互いに何でも言え、相談できる職場環境づくりに努めなければならない。
また、教育委員会においても、メンタルヘルスを含めた教員の健康管理に関わる諸施策の一層の充実に努めることが望まれるところである。
指導力不足等教員への対応は、何よりもそうした教員に指導を受けなければならない児童生徒のことを考えて行う必要がある。
従って、対応に当たっては、児童生徒やその保護者、地域住民の声を十分把握しておかなければならない。そのためには、児童生徒や保護者、地域住民の声が学校に届きやすくなるよう開かれた学校づくりを推進する必要がある。
このことは、指導力不足等教員への対応に限らず、「教員の人事評価制度の在り方」の中でも述べるように、教員全体の資質能力の向上を図っていく上でも重要なことである。
また、学校、家庭、地域社会の連携を深めていく上でも重要なことである。
このため、PTAとの会合等において、保護者が自由に意見が言えるような環境づくりに努めるとともに、学校評議員制度の導入や、今年度から始まった学校評価制度の調査研究を進めることによって、学校外の声が十分反映される、地域に開かれた風通しの良い学校づくりの一層の推進に努める必要がある。
教員には、子どもを慈しみ育むことに対する情熱や、教育者としての誇りを持ち、多様な子どもと向き合い、受け入れ、共感できる資質が必要であり、指導力不足等教員を出さないためには、教員の採用のあり方も重要なポイントとなる。
本県では、集団面接や個人面接の導入、模擬授業の実施等々、これまで数次にわたり教員採用のあり方について見直しが行われてきたところである。
また、今年度の教員採用試験の実施要項では、「このような先生を求めています」として求める教員像を示し、人物重視の採用を目指しているところであるが、採用後も大きな成長が期待できる人物が採用できるよう、今後とも採用のあり方について工夫、改善を心がけていく必要がある。
また、一旦採用しても、条件付採用期間中の勤務の状況をきちんと把握・評価し、条件付採用制度の趣旨に沿った的確な運用に努めなければならない。
「教員としての力量の向上は、日々の教育実践や教員自身の研修により図られるのが基本であるが、任命権者等が行う研修も極めて重要である。」(平成11年12月教育職員養成審議会第3次答申)とされているところであり、研修制度の充実は教員の資質能力の向上を図る上で重要な課題である。
本県では、教員のライフステージに応じた研修や、教科領域、職能、教育課題などに応じた研修が行われている。
また、実践的・体験的な研修として民間企業等における長期社会体験研修なども行われているところである。
教員の資質能力の向上については、養成、採用、研修の各段階において取り組むとともに、各段階の有機的な連携の中で考えていくことも重要であるため、地元の教員養成機関と連携し、その協力を得ながら行うことについても検討する必要があるものと考える。
また、後述する人事評価制度と連動した研修制度の整備についても検討すべきであろう。
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