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香川の魅力
目次
香川県は、全国生産量の8 割を占める松盆栽の産地である。海に突き出た崖の上で、あるいは里山の岩を割り、優美に枝葉を伸ばす松の姿に心打たれ、二百年以上も前から盆栽鉢の中で松の景色をつくり上げてきた。その楽しみの一端を味わうことができるのが、盆栽をイメージした干菓子「箱盆」である。
日本一の松盆栽の産地で、盆栽と和三盆の魅力を伝えたいと生まれた「箱盆」
盆栽の鉢をイメージしたパッケージに収められているのは、盆栽と同じく香川県の特産品である讃岐和三盆。上品な甘さと口溶けが身上だが、「箱盆」には味のみならず、もう一つの楽しみがある。ふたを開ければ、懐紙に描かれた枝ぶりの良い松の幹が見える。松の葉や梅の花を枝に乗せ、この世でただ一つの景色を自分の手でつくるのだ。
このアイデアを思い付いたのは、盆栽園の5代目である花澤登人氏。盆栽は、自然への崇敬や植物への深い愛が底流にあり、目をかけ、手をかけ、時間をかけ、対話しながら作り上げる。手間暇がかかるだけに、高齢者の趣味というイメージが根強く、若い世代に敬遠されてきた。そこで、盆栽に興味を持ってもらうきっかけとして、盆の上に石や草木を配置して自然の景色をつくる「盆景」のように、菓子を素材にして盆栽の景色をつくり、味わう楽しみがあれば、気軽に盆栽に触れてもらえるのではと考えた。
この話を託されたのが、和三盆干菓子メーカーの日和制作所であった。
代表でありデザイナーの泉田志穂氏は、大変な手間暇をかけて作られるために高級品である和三盆を、もっと身近に感じてもらいたいと、普段の暮らしに取り入れやすい商品の企画に取り組んでいる。
愛らしい色や形、深い味わいは世代や国境を越えて愛されるはずと、時には新たな切り口でギターやコーヒー豆をかたどった干菓子を作り出していた泉田氏だが、花澤氏に盆栽の魅力を一から学び、今回は讃岐和三盆の伝統的な型を生かすことにした。年月がつくり上げる美や花鳥風月の自然美を愛する日本人の心を伝えるためだ。
こうして、二人それぞれが愛する香川県の特産品であった盆栽と和三盆、二つの「盆」の魅力が一つになって誕生した「箱盆」は、盆栽の展示販売所「高松盆栽の郷」の新商品コンテストで、見事、最優秀賞(知事賞)に輝いた。
懐紙の上に生まれる一瞬のアートで、つくる楽しさと愛でる豊かさ、味わう喜びを感じていただきたい。
和三盆を身近に感じてもらいたいと、日々、木型のデザインを考案中。ちなみに木型の素材は樹齢百年を経た山桜。
「箱盆」をはじめ日和制作所の和三盆商品は、「なんでもない日をちょっといい日に」がコンセプト。工房に併設されたショップで購入可能 。
日和制作所(高松市藤塚町)
泉田 志穂
1981年生まれ、幼少より香川県で育つ。岡山県立大学のデザイン学部にて工芸工業デザインを学ぶ。卒業後はものづくりの会社を転々としながら基礎を習得した後、2013年フリーランスのデザイナーに。2015年に香川県の名産である和三盆を扱う「日和制作所」の活動開始。現在はクラフトデザイナーとして扱う素材の幅も広がっている。
花澤明春園(高松市鬼無町)
花澤 登人
1956年生まれ、花澤明春園の5代目として育つ。香川県農業短期大学校(現香川県立農業大学校)に進み、卒業後も修行を重ねる。訪れるだけで楽しめる店舗設計を心掛け、水石や山野草も学ぶ。盆栽教室を開校し、「盆栽・山野草倶楽部」を主宰。アニメーション動画「Family BONSAI」を制作して動画投稿サイト「YouTube」で配信するなど、国内外に盆栽の魅力を広く発信している。
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