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香川の魅力
目次
日本文化を足元から支えてきた下駄や草履だが、今では特別な日の履物と捉えている人も少なくない。しかし、黒田夫妻が作るのは、毎日快適に履けて、履くほどにフィットする、オンリーワンの下駄や草履だ。
履物の卸問屋として先代を引き継いだ二人。子育てが一段落した恵さんは稽古事を始め、草履で長時間歩くと足が痛くなることに気付いた。重憲さんに不満を述べると「履物屋の妻がそんなことを言うのなら、自分で作ってみろ」との返答。そこで一念発起し、お気に入りの帯揚げで太い鼻緒の草履を作ったところ、他の職人から「そんなやぼったい物は売れないよ」と一笑された。細い鼻緒が粋とされていたのだ。ところが、稽古仲間からは「履きやすそう! 私もほしい」と次々と声が掛かる。何より恵さんの足腰の具合がすこぶる良くなった。
鼻緒の履物は足指をしっかりと使う歩き方を促すからではないかと気付いた二人は、まず下駄しか履かない暮らしを試してみた。体調は良くなったものの、そろって下駄だこができ、歩けないほど痛い。自らが実験台となって改良の日々が始まった。
痛くならない草履表や歩きやすい裏素材、見た目だけではない正しい歩行をサポートするための形、さらに現在の暮らしに溶け込むデザインを追い求め、試行錯誤を繰り返した。そして、歩きたくなる、走りたくなる黒田オリジナルの履物の基本形を見いだした。
同時に一人一人に合わせてカスタマイズする大切さに気付く。そこで、最初はあえて柔らかいゴム底を付ける。減り具合によってその人の歩き方などの癖を確認するためだ。その削れた部分を、固い裏素材で修理することでオーダーメードが完成する。「ですから、黒田の履物が本領を発揮するのは最初のメンテナンスをしてからなんですよ」と恵さん。手入れを繰り返し、その人にとって履きやすい履物に育てながら、20年も履き続けられるという。
「もちろん機能性が第一です。でも、足元からわくわくしていただきたい」と語る恵さんは、一年に一度、鼻緒の生地になる素材探しの旅に出る。ヨーロッパ、アフリカ、インドネシアと世界中を歩き回り、国内の骨董店ではるかな時間も旅する。室町時代の鹿革や江戸時代の裃の生地はこの世でたった一つの鼻緒になる。わくわくさせる素材は、傘やバッグなどにも生まれ変わる。
一方、傍らで黙々と作業を続けている重憲さん。下駄や草履は分業で作られ、20人近くの職人の手を経て一足に仕上がる。しかし、高齢化とコロナ禍で廃業した人も少なくない。今ではそうした職人4人分の仕事を重憲さんがこなし、必要な道具を自ら作ったりもしている。
客の用途や好み、要望から恵さんが企画し重憲さんが形にするオリジナルデザインの履物。和装洋装を問わず四季を通じ今の暮らしになじんだ履物は、「お客さまに育てていただいたもの」とうなずき合うご夫婦。履物と足のようにあうんの呼吸の二人が、歩きやすさを追求したデザインを生み出す。
オリジナルブランド「マイソール下駄」を洋服姿で粋に履きこなす二人。
恵さんが世界各地、日本各地で集めた素材からオンリーワンの鼻緒が生まれる。秘めた歴史や物語が履物の魅力を高める。
黒田商店 |
店内には一本歯の下駄や子ども用の愛らしい下駄も。使う人の事情に合わせた最適の履物を追求できる。 |
電話:087-831-5758 住所:香川県高松市田町8-12 |
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